涙が幸せの泉にかわるまで

寿佳穏 kotobuki kanon

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トライアングルLOVE

揺れ惑う心9

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佐知はひとり東京に向かっていた。乗り込んだタクシーの窓から病院が見えてきた。院長のお伴で何度か訪れたことのあるその病院は美香との出会いの場でもあり懐かしくさえあった。はやる気持ちを抑えながら病室に向かっていた。

雅和の名前を見つけた大部屋の病室を覗いていると初老の男性と目があった。男性はベッドの上に広げていた新聞を畳みながら声をかけてきた

「御嬢さんは誰かをお探しかな」

「同室の井川さんは」

「あぁ彼なら今リハビリ中だよ かれこれ一時間は経つからもう戻ってくるだろう、座って待っていなさい私の前が井川君のベッドだ」

「ありがとうございます」


椅子に座り本を読んでいるとカツンンカツンという音が間近で止まった 肩を叩かれ振り向くと杖を手にした雅和が立っていた。

「一人で歩けるようになったのね 元気そうでよかった~」

「もう少し頑張れば仕事復帰も遠い先のことじゃないらしいよ 佐知にもいろいろ心配かけてしまってごめん」

「わたし雅和が思ったより早く退院できそうだって秀行先生に聞いて嬉しくて来ちゃった」

「遠いのにありがとう そういえば佐知が勤める病院の先生が会いに来てくれたって聞いたけどあの時の俺は記憶があいまいでよく覚えてないんだ」

「えっ西條先生が来てくれたの」

「そう、その西條先生がこの病院も紹介してくれた だから西條先生には一番にお礼をしなければと思っていたんだ 佐知帰ったら君のほうからよろしく伝えておいてくれないかな」

「えぇ必ず伝えるわ」

「佐知はもう聞いているだろうけど、明日香は俺の居眠り運転で、おれのせいで明日香は」

「やめましょう、どんなに責めて悔やんでも、もう終わったこと 冷たい言い方かもしれないけどもう元には戻れないのよ 戻れないけど・・振り返るなら辛い事や悲しい事じゃなく楽しかった思い出だけでいいと思わない 終わったことを嘆くより大事なのはこれから先よ 雅和には昔のように希望を持って突き進んでほしいの 美香さんだって同じことを言った筈だわ それは雅和にだってわかるでしょう」

「明日香は美香さんが命を削ってまで残してくれた大切な宝だ なのに俺は自らの手でその宝を、明日香の命を消した 俺にしかわからないどうしようもない感情はそう簡単には・・佐知が言う希望がどんなものか俺には見当つかないし見つかりそうもないよ」

「人の感情を理解し変わってあげられたらどんなにいいか・・でもそれは不可能よね 雅和は自分の感情のすべてを受けいれてそこから少しずつ消化していくしか」

「大切なものを根こそぎ持っていかれた俺の気持ちを理解出来るなんていう奴がいたら俺は殴り飛ばすだろうな そんな奴ほど俺には冷たい偽善者に思えるよ」

「確かに人の奥底にある感情は誰にもわからないし分かろうとしたってすべてを理解出来る訳ではないわ でもその感情に寄り添い心を傾ける事はできる、そういう人がいるだけでも救われることってあるんじゃないかしら」

「俺に救いなんてあるのかな」

「雅和は覚えているかな この病院は私と美香さんが初めて出会った場所なの 今ここに美香さんがいて此処にいる私が美香さんだったら雅和は癒されていたし希望だって見いだせていたわ そうでしょ間違ってないわよね 美香さんにはなれないのは分かってるけどわたしはそういう存在でいたいの 雅和の希望が見つかる迄でいいから側に居させて欲しいの」

「佐知の気持ちは嬉しいよ でも俺の心配はもういいよ 自分のことを一番に考えて親父が願った幸せをつかんで欲しい」

「いま私の幸せは以前のように希望に満ち前に進む貴方を見届けることよ 美香さんに代わり雅和貴方を支えることが私の幸せなの、だからもう少しだけあなたに関わらせてお願い雅和」

「佐知は西條先生のことをちゃんと考えたことあるのか」

「急にどうしたの」


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