涙が幸せの泉にかわるまで

寿佳穏 kotobuki kanon

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悲しみの連鎖

大切なものが33

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秀行は病院敷地内にある自宅に戻り昼食をとっていた。

「秀行、佐知さんから内線よ」

「もしもし佐知さん、いま母さんと食事中だから折り返し電話するよ 急ぎの用件ならいま聞くけど」

「お食事中すみません 急ぎというほどのことじゃないのですが早退の許可をいただきたくてお電話しました」

「どこか具合が悪いなら僕が診るよ」

「いいえそう言うことじゃなくて、彼が井川君が・・」

「そっちで話を聞く 急いで戻るから部屋で待っていて」


秀行はフォークに刺したポークソテーを皿に戻し病院へと走った。サンダルばきで慌てて駆け込んできた秀行に佐知は頭を下げた。

「お食事中本当にすみません」

「僕にわかるように説明してくれる」

「・・・」

「君は大人だ責任ある仕事を途中で投げ出すには理由があるはずだ きちんと話すのが筋だろう」

「実はさっき彼の会社から電話が来て交通事故で入院したと」

「彼って昨日ここにきた彼?」

「はい」

「それで彼の容態は」

「重傷だそうです」

「それで佐知さんは仕事を二の次にして彼に会いに行こうと」

「違います 私が会いたいのは彼の子供の明日香ちゃんです 彼の奥さんのお腹に入っていた時から私はずっと彼女を見てきました 可愛くて天使のような明日香ちゃんはみんなに愛されていました その明日香ちゃんが死んだと聞かされて・・だから私」


「・・そうか 君の気持はわかった でも早退は許さない 今日は土曜だ、あと数時間もすれば帰れる それに明日は休日だ 君は仕事が終わったら自宅に戻り出かける準備をしてここに来なさい これは僕からの命令だから従ってもらうよ、いいね」

「ここに、どうして此処に?」

「僕が彼のところに君を連れて行く」

「秀行さんがどうして」

「僕は君を守るボディガードだから取り乱している君を一人で行かせるわけにはいかない」

「秀行さん・・ありがとう」

「さて話はついたから戻るとするか、母さん怒ってるだろうな 温かな食事は温かいうちにたべる、そして食事中は黙って席を立たないそれが母さんの掟だからね」

気落ちした佐知に爽涼感のある茶目っ気をみせながら秀行は部屋を出て行った。パチパチはじけるサイダー水のようなその笑顔は沈んだ心をほんの少しだったが明るくしてくれた。

仕事が終わると一目散に自宅に帰った。母に事情を話し早めの夕食を済ませた。雅和との付き合いを知っていた母は佐知の背中を優しく擦り快く送り出してくれた。


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