涙が幸せの泉にかわるまで

寿佳穏 kotobuki kanon

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悲しみの連鎖

大切なものが21

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あの夜以来雅和は自分からかける電話を躊躇していた。その後佐知に電話をかけるも話中で繋がらなかった。


こんなこと今までなかった 俺がかける電話が繋がらない、電話に出ないなんて一度も無かったのに・・こんなことで佐知に苛立つのは俺の驕りなのか


理解しがたい感情が湧き上がった。愛情の裏返し憎しみにも似たそれは初めて味わうものだった。雅和は飲みかけのカップを手に空いたカウンター席に移動した。田鶴子は淹れたての珈琲を雅和の前に置いた。


「どうぞサービスよ 佐知さんどうしたのかしらめずらしいわね、井川君が帰って来ているのに今日は来ないのかしら」

「最近の佐知は・・もう前とはちがう」


独り言のように呟いた雅和に田鶴子が言葉を返した。


「彼女はいま恋をしているのね きっとそうよ」

「佐知が恋?爆弾発言だな」

「人を変えてしまうは恋のなせる業っていうこともあるんじゃないかしら」

「だからって決めつけるのはどうかなママは佐知からなにか聞いて、それでそんなことを」

「井川君少し心配になってる?」

「俺は心配なんかしてないよ この前佐知が言ったんだ お互いに恋人が出来たら隠しっこは無しにしようって 彼氏が出来たなら話してくれたっていいのに水臭いなあいつ」

「話せないのは佐知さんの一方通行の恋だからじゃないかしら 相手の気持ちがわからないからまだ話せないのかもしれないわね」

「・・・・」

「佐知さんが恋をしているとして井川君はそれを喜んであげられる?出来ないならもう一度、自分の気持ちに向き合ってみることね 今ならまだ間に合うわ」

「霊感のあるママに何が見えようと佐知と俺は昔の関係には戻れないよ 俺は誰にも心惹かれることはないし美香さんを忘れないと誓ったんだ」

「井川君は美香さんを忘れないではなく、忘れたくないのよね あの日から時間が止まり未来に進めない訳を貴方はわかっているはずだわ 今ある記憶がいつかは薄れ忘れ去られるのを恐れているからでしょ」

「確かに記憶はいつしか薄れてしまうのかもしれない、だからといって佐知との復活愛なんて考えられない 気持ちを度外視したママの都合のいい話は無茶苦茶すぎるよ ママ俺は彼女の再三の思いを蹴ってきたひどい男なんだ  昔に戻りたいと懇願する佐知の思いに答えられなかった 涙する彼女に手を伸べることも優しい言葉をかけることも出来なかった あの時の悲痛な彼女の顔はもう見たくないんだ 親父が願ったように俺も佐知には幸せになってほしい 佐知が過去を葬り新たな愛を見つけたのなら俺は心から祝福するよ」

「井川君がいま話したことは佐知さんの気持ちと符号しているわ 貴方の幸せを願いその笑顔を見るのが佐知さんの喜びだった くすぶり続ける愛を隠して貴方を支えてきた そうまでした彼女の思いを少しは汲んでほしいわ 私は美香さん同様に佐知さんのこと忘れてはいけないと思うのよ 失ってその大きさに気づくのは愚か者のすることよ 冷たいかもしれないけど美香さんは私たちが生活しているこの世界にはもう存在しない人、でもあなたと佐知さんは・・もうこの話はやめましょう、とにかくこれだけは覚えておいてちょうだい あなたと佐知さん二人はこれからも波乱にみちた道のりだけど必ず光指す日が来るわ どんなことがあろうと乗り越えた先に幸せが待っている事を信じてほしいの 井川君はまた私の事を気味悪がっているでしょうけど・・井川君運転中は気をつけてね 無理はしないでね 約束よ」

「ママに真顔で約束よなんていわれるとなんか怖いな でも安全運転厳守約束するから心配しないでいいよ」

「ありがとう井川君」


また見えてしまった・・
田鶴子は嫌な予感が気のせいであってほしい的中しないで欲しいと願わずにいられなかった。




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