206 / 316
悲しみの連鎖
大切なものが20
しおりを挟む
運転席の秀行は医学書を読みながら佐知を待っていた。病院から少し離れた場所にもう一台車が停まっているのが見えた。その車は雅和の車とよく似ていた。車の男二人はどちらも女性を待っていた。病院の裏手から駆けてくる女性の姿がみえた。その女性がだれかは二人の男性にはすぐわかった。雅和がクラクションを鳴らそうとしたそのときだった。車から降りてきた男性にエスコートされる佐知に雅和は驚きを隠せなかった。佐知を乗せた車はUターンして雅和の目の前を走り去っていった。車を降りた雅和は車道に立ち、遠ざかるその陰を見続けていた。佐知が男と・・雅和は茫然と立ちすくんでいた。
過去にけりつけてやっと俺から巣立ったってことか・・
安堵した雅和の心になぜか冷たい隙間風が吹いていた。この日を境に雅和は明日香と二人の生活を真剣に考えなければと思いはじめた。佐知は次第に秀行に傾倒していた。雅和を思い続けた日々が今は幻想のようだった。佐知は美香が残した言葉を忘れてしまいたかった。
変えようとした訳でも忘れようとした訳でもないのに、雅和がどんどん追いやられていく・・本当にこれでいいの
消し去ろうとしていた愛がどんどん透明化されていくようで寂しかった 週末SIGNPOSTを覗くとママと談笑する雅和の姿があった。
「佐知久しぶり、相変わらず元気そうで何よりだな」
「電話がないから心配していたのよ、仕事忙しいの」
「どんなに忙しくても電話くらいかける時間はあるよ でも誰かさんの携帯電話はいつも話し中で俺より忙しそうだったけどな」
「・・・・」
「繋がらないから俺は電話をかけるのをやめた、それだけのこと」
「ごめん」
思えば秀行との電話は深夜に及ぶこともあった。他愛もないお喋りだったが時間を忘れるほど佐知は楽しかった。
「前にも言ったけど俺、明日香と静岡に帰え」
「あっごめんなさい、電話にでてもいい」
戻ってきた佐知の顔がほのかに赤らんでいた。
「電話もう済んだのか早いな」
「あのね・・急用ができたの 話途中なのにごめんね」
「急ぎなら送っていこうか」
「いいの雅和はここにいて、本当にいいから此処にいて」
「佐知にもやっと春がきたって感じだな、図星だろ」
「そ・そんな、そんなんじゃないわ ママご馳走様でした」
妙に慌てた口ぶりに雅和はいつかの車の男を思い出していた。
過去にけりつけてやっと俺から巣立ったってことか・・
安堵した雅和の心になぜか冷たい隙間風が吹いていた。この日を境に雅和は明日香と二人の生活を真剣に考えなければと思いはじめた。佐知は次第に秀行に傾倒していた。雅和を思い続けた日々が今は幻想のようだった。佐知は美香が残した言葉を忘れてしまいたかった。
変えようとした訳でも忘れようとした訳でもないのに、雅和がどんどん追いやられていく・・本当にこれでいいの
消し去ろうとしていた愛がどんどん透明化されていくようで寂しかった 週末SIGNPOSTを覗くとママと談笑する雅和の姿があった。
「佐知久しぶり、相変わらず元気そうで何よりだな」
「電話がないから心配していたのよ、仕事忙しいの」
「どんなに忙しくても電話くらいかける時間はあるよ でも誰かさんの携帯電話はいつも話し中で俺より忙しそうだったけどな」
「・・・・」
「繋がらないから俺は電話をかけるのをやめた、それだけのこと」
「ごめん」
思えば秀行との電話は深夜に及ぶこともあった。他愛もないお喋りだったが時間を忘れるほど佐知は楽しかった。
「前にも言ったけど俺、明日香と静岡に帰え」
「あっごめんなさい、電話にでてもいい」
戻ってきた佐知の顔がほのかに赤らんでいた。
「電話もう済んだのか早いな」
「あのね・・急用ができたの 話途中なのにごめんね」
「急ぎなら送っていこうか」
「いいの雅和はここにいて、本当にいいから此処にいて」
「佐知にもやっと春がきたって感じだな、図星だろ」
「そ・そんな、そんなんじゃないわ ママご馳走様でした」
妙に慌てた口ぶりに雅和はいつかの車の男を思い出していた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる