涙が幸せの泉にかわるまで

寿佳穏 kotobuki kanon

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悲しみの連鎖

大切なものが10

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「みんな顔並べてどうしたの」

「どうしたのはないだろ、いつもなら開いてるのに閉まったままだからさ休みかと思ったよ」

「ごめんなさい 今日は明日香に手を焼いてしまって、待たせて本当にごめんなさいね」

「八百正の袋を提げているって事は、また長話してたんだろうママ」

「よまれましたか、すみません」


店は改装されてキッチンの後に明日香の部屋ができていた。食品の倉庫室とロッカーをはらい和室を新たに作ったのだ。明日香は一日の大半をこの部屋で過ごした。

「ママ、俺は孫の世話で子供の扱いは慣れてるから見ててやるよ」

「それじゃお言葉に甘えて菅(かん)ちゃんにお願いしようかな」

愚図る明日香を酒屋を営む常連の管さんに預け田鶴子は急いで仕込みをはじめた。菅さんの腕の中で明日香はいつのまにか寝息を立てていた。

「管ちゃんありがとう、助かったわ」


和室に敷いたキティちゃんの布団に明日香を寝かせカウンターに戻ると電話が鳴った。


「ママ、井川です 今夜行きますのでよろしくお願いします 明日香は?」

「今寝たところ、今日はご機嫌斜めで大変だったの パパの顔見てご機嫌が直るといいんだけど」

「ママには感謝しています 週末は俺が明日香を見てますから少しでも体を休めてください」

「心配しないで、でも正直言って子育てがこんなに大変だとは、一人で明日香ちゃんの世話をしていた井川君を見直したわ 週末に疲れた体をおして会いに来るのも重労働よね、体がつらい時は無理して来なくてもいいのよ」

「大丈夫です、無理はしていませんから」

「そういえば佐知さんが夕方お店に来るって言っていたけど約束してるの」


「なら俺が行くまで待っててもらうよう伝えてくれますか」

「明日香ちゃんがいることだしお店よりマンションの方が落ち着いて話せるわ 佐知さんには明日香ちゃんを連れて私のマンションで待ってもらうように伝えておくけどいいかしら」

「はい、宜しくお願いします」


店の和室に田鶴子用の布団も置かれてあった。田鶴子は明日香の匂いが残るこの部屋で週末を過ごしていた。雅和と明日香のために週末は自宅マンションを明け渡した。田鶴子は雅和と明日香、父娘二人の時間に割りいる気持ちを押し止めていた。


苦労し手塩をかけ愛を注ぎ育てるからこそ親子の絆が生まれその愛に包まれ育った感謝を忘れないから家族の絆が結ばれるのでしょうね 頑張って井川くん


離れて暮らす雅和と明日香ふたりに親子の絆を少しずつ紡いでいってほしいと田鶴子は心から願っていた。




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