涙が幸せの泉にかわるまで

寿佳穏 kotobuki kanon

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悲しみの連鎖

大切なものが5

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雅和からの電話が途絶えていた。佐知は鳴らない携帯を手にして溜め息ばかりをついていた。声を聞きたければかければよいものをそれも出来ずにいた

雅和は口にこそしないが受話器の向こうから雅和の美香への恋慕が伝わり佐知は忍びなかった。

私は昔の恋人・・過去形で美香さんはこれからも愛する人のまま進行形 

男は世の中にごまんといるのに雅和に執着する自分に佐知はほとほとあきれ返っていたがそんな佐知に懐かしい人物との再会が巡ってきた。


「さっちゃん、院長婦人がお呼びよ」

「また院長先生のお供かな」

「仕事はいいから佐知さん早く行きなさい」

「このカルテ計算、部長から頼まれた急ぎの仕事なんです 午前中に終わらせないと私また部長に・・」

「こんな量のカルテを佐知さんだけに随分いけずなことするわね、これはやっておくから心配しないで今後部長に仕事を頼まれたら私に報告するのよ 皆んなで手分けすれば効率いいわ」

「主任ありがとうございます では皆さん皆井佐知は今から恐怖の呼び出しに行ってまいります」

「もう佐知さんたら院長婦人に聞こえたら大変よ」

「院長も恐れる婦人の呼び出しだもの気合も入れたくなるよね」

「そうよ、さっちゃんに同情しちゃう」


いつのまに入ってきたのかハイミス部長が立っていた

「また仕事もしないで何を騒いでいるのかしら皆井さん」

「部長、急ぎの用で院長夫人に呼ばれたのでこれから行くところでした」

「院長夫人があなたを・・皆井さん貴女あれから突然いなくなったり無駄話に花を咲かせたりしていないか見に来たのだけど婦人の呼び出しならしかたないわ ほらボーッと突っ立てないで早く行きなさい」

部長は眉間に縦じまをつくり佐知を見すえていた。

病院の庭を抜けると芝生の敷地に三階建ての建物があって1、2階は従業員の社員寮3階が院長の住まいになっていた。自宅は別にあるのだが社員寮の建設時に院長自身の簡易住居も希望したらしい。そこで寝泊りする姿に誰もが患者第一の院長らしいと目を細めていた。自宅に戻らない院長を追って婦人もいつしか住人となって久しかった。たまにしか帰らない邸宅のお屋敷は古くからの住み込み夫婦が管理していた。


「こんにちは皆井です 遅くなってすみません」

「待っていたのよ、佐知さん入ってちょうだい」

リビングのバルコニーに面したソファーに男性の後姿が見えた。その男性は立ち上がると佐知に笑顔を見せた。


 
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