上 下
183 / 292
さようならの予感

君を忘れはしない11

しおりを挟む
「美香ちゃんわかるSIGNPOSTのママよ、あなたの叔母さんよ」

トン・トン・・

田鶴子が扉を開けると乱れた呼吸の雅和が立っていた。

「あなたを待っていたのよ」

「美香さん・・・意識は」

「まだ・・でも美香ちゃんが声を・・呻きのような声だったけどいま確かに聞こえたの」

「う、うぅ・・」

「ほら・・ほら聞こえるでしょ」

「美香さん俺がわかるか しっかりしろ、目を覚ましてくれ美香さん」

「あ・ぁ・あ・うぅ」

「そうだ、まさかずだ・・俺がわかるんだな、側についているから大丈夫 いま赤ちゃんを見てきたよ 元気に生まれてきてくれてよかった美香さんありがとう」

「井川君、美香ちゃんの目をみて」

美香の目から一筋の涙が零れおちていた。

「井川君の言葉・・きっと通じているんだわ」

「君は命がけで赤ちゃんを守った  よく頑張ったな美香さん、今度は俺が命に変えても君達を守る、だから早く目を覚ましてくれ元気になるんだ」

「井川君、わたしが今日ここに居るのは真実を話すため、佐知さんが背中を押してくれたから来たの」

「佐知が・・」

「今朝ポストに手紙が入っていたの 佐知さんからだったわ 叔母である私の口から美香さんに真実を告げてほしいと書いてあった」

「・・・・・」

「美香さんに話し聞かせていた時あなたが此処にきた、だから井川君わたしに話の続きをさせて、美香さん聞いてね、私は幼い頃に兄であるあなたのお父さんと離れ離れになった 音信がないまま月日だけが流れもう会えないと諦めていたわ あなたがお店に来てくれなかったら私は兄と再会できなかった 幻だった兄と再会し姪のあなたと出会えた偶然に私は震えたわ 兄は実子の美香ちゃんあなたに会うのをそれは楽しみにしていた 乳飲み子のあなたを満足に抱くこともできなかった兄はあなたの赤ちゃんをこの手に抱ける喜びを嬉しそうに語っていたの その兄は美香ちゃんのお父さんはもうこの世にいない 夢でお父さんに会えたと美香ちゃんがいったあの時に兄はすでに死去していた。兄は美香ちゃんと会う約束を守ろうとして夢に出たのだと思ったわ。許してね、元気なお父さんに会わせてあげられなくてごめんなさい 美香ちゃん写真を持ってきたの 枕元に置いてあるから目を覚ましたら見てちょうだいね 美香ちゃんとお父さんそして私とおばあちゃんの家族写真よ 写真店に頼んでみんな一緒の写真にしてもらったのよ」

雅和は枕もとにあったその写真を手にした。長い歳月消息さえ判らなかった血のつながった家族が笑顔で美香を囲む合成写真だった。 

「ママいつこれを、とてもいい写真だ家族揃ってみんないい顔して笑ってる美香さん起きて目を開けて見てごらんお父さん、伯母さんの田鶴子ママもおばあちゃんもみんな美香さんのそばで笑ってるよ」

「ううぅ・・」

「美香さん聞こえるか」

「う、うっ・・」

「俺とママの言葉ちゃんと美香さんに伝わってるよねママ」

「そうだといいわね 美香さんの叔母SIGNPOSTのママよ、わかる」

「ううぅ・・・」

「ほらまた返事をくれた 美香さん頑張れ赤ちゃんと会いたいだろう、会って自分の手で抱くまで負けるな、何が何でも生きるんだ」

美香の目からこぼれた涙は先程とは違う涙に見えた。

「その涙の意味を教えてくれ、生きると約束してくれ返事を返してくれ」

美香の呻きに似た声はぴたりと止んでしまった。

「返事をしてくれ 頷いてくれるだけでもいい、俺は君ともっと話がしたい美香さん聞こえているんだろ起きろ、目を覚まして起きてくれ」


涙をこらえながら雅和は美香の寝顔を撫で続けていた 



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Last Recrudescence

睡眠者
現代文学
1998年、核兵器への対処法が発明された以来、その故に起こった第三次世界大戦は既に5年も渡った。庶民から大富豪まで、素人か玄人であっても誰もが皆苦しめている中、各国が戦争進行に。平和を自分の手で掴めて届けようとする理想家である村山誠志郎は、辿り着くためのチャンスを得たり失ったりその後、ある事件の仮面をつけた「奇跡」に訪れられた。同時に災厄も生まれ、その以来化け物達と怪獣達が人類を強襲し始めた。それに対して、誠志郎を含めて、「英雄」達が生れて人々を守っている。犠牲が急増しているその惨劇の戦いは人間に「災慝(さいとく)」と呼ばれている。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

微熱の午後 l’aprés-midi(ラプレミディ)

犬束
現代文学
 夢見心地にさせるきらびやかな世界、優しくリードしてくれる年上の男性。最初から別れの定められた、遊びの恋のはずだった…。  夏の終わり。大学生になってはじめての長期休暇の後半をもてあます葉《よう》のもとに知らせが届く。  “大祖父の残した洋館に、映画の撮影クルーがやって来た”  好奇心に駆られて訪れたそこで、葉は十歳年上の脚本家、田坂佳思《けいし》から、ここに軟禁されているあいだ、恋人になって幸福な気分で過ごさないか、と提案される。  《第11回BL小説大賞にエントリーしています。》☜ 10月15日にキャンセルしました。  読んでいただけるだけでも、エールを送って下さるなら尚のこと、お腹をさらして喜びます🐕🐾

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ガラスの森

菊池昭仁
現代文学
自由奔放な女、木ノ葉(このは)と死の淵を彷徨う絵描き、伊吹雅彦は那須の別荘で静かに暮らしていた。 死を待ちながら生きることの矛盾と苦悩。愛することの不条理。 明日が不確実な男は女を愛してもいいのだろうか? 愛と死の物語です。

処理中です...