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さようならの予感

望みを叶えて6

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それからほどなくして田鶴子のもとに雅和から電話が入った。

「今日はママにお願いしたいことがあって電話しました 俺しばらくそっちに行けそうもなくてママに美香さんのことを頼みたいんです 忙しいのにすみません」

「私でよければ喜んでお引き受けするわよ 美香さんは私の可愛い姪っ子だもの任せてちょうだい」

田鶴子は雅和のいつもと違う口調にただならぬ事態を察した。

「差し支えなければこっちに来られない理由をきかせてくれる、あっご免なさい無理に聞くつもりはないの、やっぱり止めておくわ」

「実は健康診断で母の胃に腫瘍が見つかって手術することになったんです」

「それは一大事じゃないの」

「美香さんのことも心配だけど、いま母さんが頼れるのは俺しか・・こんなとき母さんを支えられるのは俺だけだから・・すみません」

「わかったそれ以上なにも言わないでいいわ 美香さんのことは心配しないでお母様に付き添って力になっておあげなさい」

「こんな時は佐知に頼んでいたけれど今回はママにお願いするのが筋のような気がして」

「私が美香さんの叔母だからそうなのね、ところで私がお店に戻ったこと誰から?」

「佐知が同僚からお店の明かりが付いていたって聞いて俺に教えてくれました」

田鶴子は兄の近況を知るため雅和が兄の世話人だったケアマンションマネージャーの須藤に接触する事を一番に恐れていた。  

「ママが帰ってきたという事は佐々木さんの体も落ち着いたのですね」

「えぇ顔色も良くなってひと安心よ でも高齢だから大事をとって退院は暫くはお預けになってしまったの」

田鶴子は佐々木の死を知られまいと淀むことなく嘘をついた。

「佐々木さんが元気になって俺すごく嬉しいです 早く退院できるといいですね」

「美香さんの事は私が責任もってお世話しますから心配しないでいいわ、井川君はお母さんが回復するまで付き添いに専念して頂戴」

「ありがとうございます 宜しくお願いします 美香さんに俺は長期出張でいない事にしてもらっていいですか」

「えぇうまく伝えておくから任せて、お母さんお大事にね」

田鶴子の潜在能力はいつもに増して鮮明になっていた。

見たくないのに見えた又見える 美香さんの命が・・・

為すすべもなく田鶴子は次から次と襲い来る焦燥感に打ちひしがれていた。



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