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さようならの予感

望みを叶えて3

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須藤からの強い勧めもあり田鶴子はホテルを出て兄の佐々木が(美香の父)居住していたケアマンションに移り付き添い続けていた。

その後検査結果に異状は見つからず佐々木は歩けるまでに回復していた。

「田鶴子もう心配ないから帰りなさい」

「今週いっぱい居させてください こうしてお兄さんと過ごせる時間をもらったんですもの帰れなんて言わないでもう少しだけ側にいてもいいでしょ、ねぇお兄様お願いします」

「いい歳をしてまるで子供のようだな」

田鶴子を見つめるその顔はすっかり兄の顔になっていた。

「田鶴子に頼みたいことがある 聞いてくれるか」

「はい、なんですか」

「君にすべてを託そうと思っている 万が一、僕に何が起きても須藤君に聞けば困らないようにしてある」

「止めてください、こんな時に不謹慎だわ」

「君が帰ってからではいつ又話せるかわからない 美香のことも・・美香を悲しませることだけは避けたいが今となっては美香との再会さえ果たせるかどうか分からない」

「お兄様がそんなことを言ってどうするの 美香ちゃんにとっては最初で最後のお願いなのよ 父親なら子供の願いをなんとしても叶えてあげて」

「美香の願いを叶えようと、どんなにもがいた所でもう私には残された時間が・・せめてもう少しだけでも若かったら、田鶴子が言う美香の希望の火を消してはならないのはわかっているよ だから田鶴子、君に、僕の妹だからこそすべてを託すつもりだ どうか僕の気持ちをくんでくれないか」

黙りこむ田鶴子の手を握り佐々木は頭を下げ続けた。そしてこれがやっと巡りあえた兄と妹が交わす最後の会話となった。再び発作を起こした佐々木はそのまま帰らぬ人となった。思い起こせば亡くなる前日の佐々木は珍しく饒舌だった。昔話を嫌っていた佐々木があの日は遠い昔を懐かしんで笑っていた。黄泉の国に召される人には走馬灯のように昔が甦るというが佐々木にもそれが見えていたのだろうか。


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