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父の消息

素顔を見せて3

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SIGNPOSTのママ田鶴子はいくら待てども連絡のない兄(美香の父)を案じていた。田鶴子は早朝から妙な胸騒ぎを覚えていた。兄の世話係り・須藤からお店に電話が入ったのはその日の夕刻だった。須藤からの電話は兄の急変を知らせるものだった。

「須藤と申します 沢村田鶴子さんですね」

「須藤さん、いつも兄がお世話になっております 先だっては失礼致しました」

「ご連絡差し上げるのが遅れまして申し訳ございません 今日佐々木様が倒れられて病院に搬送されました」

「兄が、それで兄の様態は」

「主治医の見立てでは心筋梗塞ではないかと、でもご心配いりません 今は落ち着いていらっしゃいます 取り急ぎお伝えしなければと思いお電話致しました」

「ありがとうございます 明朝そちらに向かいますので入院先をこの番号にファックスで流していただけますか」

「妹の田鶴子さんに来ていただけたら佐々木様も心強いでしょう 電話を切りましたら至急地図と住所をお送りします では失礼致します」

お客が途切れると田鶴子は慌しく店を閉め自宅に走り戻った。時計を見上げた田鶴子は肩を落とした。

「最終はだめか、やっぱり今日は無理ね」

田鶴子は雅和の番号に指をかけた。

「井川君、沢村田鶴子です」

「お久しぶりですねママ」

「早速だけど井川君、あにが、あっ、あのね実は、あっごめんなさいね ちょっと喉の調子がおかしくて、えーと実は・・・あれナンの話だったかしら」

「大丈夫ですかママ いつもと違いますね」

「今日は忙し過ぎて疲れているんだわ 仕切り直して本題に入るわね 今日電話したのは美香さんのお父さんの事なの 井川君は美香さんのお父さんが入院したこと耳にしているかしら」

「お父さんが入院したってそれ本当ですか 美香さんと会うのをあんなに楽しみしていたのに」

「知らなかったみたいね」

「美香さんのお父さんの事をどうしてママが・・いったいどこで誰から」

「ごめんなさい、誰か来たみたいなの電話切るわね」

来客なんて嘘だ・・

雅和は一方的に電話を切ったママの嘘を見破っていた。

今夜のママは明らかにおかしい あにがって言ってママは言葉に詰まった あ・に・ってなんなんだ 確かに何か口にした、その言葉をママは打ち消した

翌朝、雅和の手にはボストンバッグが握られていた。事務所の手塚に休暇届けの許可をもらい雅和は早朝電車に飛び乗っていた。


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