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父の消息

眠れぬ夜15

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「手紙はもう少しで終わりますから読んでしまいましょう」

「いや美香の気持ちが胸を突き刺し、どうにもたまらんのだ 落ち着いてからまた読んで聞かせてくれ」

「わかりました 持ってきた美味しい紅茶がありますからお土産に買ってきたケーキでティータイムにしましょうか」

オーディオのリモコンを押した佐々木は眼を閉じた。ジャズのピアノの音色が時計の秒針と相まって切なく耳に響いていた。

どれほどの時間が過ぎたのか閉じていた瞳を開けた美香の父(佐々木悟朗)はテーブルの手紙を手にすると田鶴子に手渡した。

「ではさっきの続きを読みますね
一番信頼し愛する彼の前で心を偽るのはつらい もう限界、体よりも心が先に負けてしまいそう 弱気になったら病気に勝てないと勇気付けてくれる彼の気持ちは解らないわけじゃない十分理解し感謝しています でも強い人は弱音を吐かないの、弱音を吐くのは私が弱いからなのですか 泣きわめき感情を爆発させたくても我慢して堪えれば強くなれるのでしょうか 私は強くない、だから弱音だって吐くし感情も抑えられない それを否定されたら私は頑張れない もうこれ以上頑張れない、怒ったり、泣いたり、困らせたりそんな自分を擁護できるのは心許せる彼じゃなければ嘘、彼であってほしいと思っているのに・・彼の前で私は精一杯の笑顔をつくってしまう まるで道化師ピエロのように悲しみさえも笑顔に変え笑っている ママごめんなさいね、一度会っただけのママにこんな手紙を送るなんておかしいですよね でも一番の理解者がママのような気がして、だからこうしてありのままを曝け出しています いま私はすっかり心が軽くなって病室の空気さえ美味しく感じられます お父さんに会いたかったようにママにも会いたい どうしてなのか自分でも不思議ですがご迷惑でなければ又お便りさせて下さい 木内美香 これで全部です」

「ありがとう、美香のことがわかってよかったよ」

「そう言って頂くとこの手紙をお持ちしたかいが・・・でもかえって心労をおかけしてしまったのでは」

「そんな心配はしないでいい 美香と会うには体力をつけてからと思っていたがそんな流暢に構えてはいられないようだね」

「お兄さんさえよければ近いうちに会いに行きませんか 私が付き添いますお店を休んでお迎えにきますから」

「そうだな一刻も早く会いに行こう 体調を考えたうえで後日連絡するが迎えに来てもらえるなら助かるよ」

「えぇ任せてください」

「田鶴子、きみにとって美香は姪にあたるのか、美香が初めて会った君に親近感をもったのも頷けるな」

兄(悟朗)の言葉に田鶴子は母を亡くしてから拭いきれなかった孤独の哀愁が薄れていくのがわかった

わたしもやっと眠れぬ夜とさよならできる・・・


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