涙が幸せの泉にかわるまで

父の消息

眠れぬ夜11

ＳＩＧＮＰＯＳＴのママ田鶴子は美香の父に会うため準備を進めていた。

佐々木の娘美香の使いの者と名乗り面会を申し込んでいた。店の定休日を利用して東京駅に降り立った田鶴子はタクシー乗り場へと向った。メモした住所を差し出すとタクシーは目的地までなんなく運んでくれた。約束の時間にはまだ時間があったがホテルと見間違うような建物に入っていった。佐々木悟朗の娘の使いと伝えると受付嬢はすんなり部屋まで案内してくれた。

「佐々木様、お約束のお客様をお連れ致しました　お通しして宜しいでしょうか」

カチャと鍵の開錠された音がして受付譲は田鶴子を部屋に入るよう促しその場を離れた。リビングにホワイトブルーのガウン姿の男性が見えた。田鶴子の自宅がすっぽり収まるリビングの広さに驚きを隠せなかった。男性に少年だった兄の面影は全くなく田鶴子は恐る恐る歩み寄った。

「はじめてお目にかかります沢村と申します　お時間をとって頂きありがとうございます」

「失礼ですが娘とあなたは歳が親子ほど離れておられるが美香とはどんなご関係で」

「美香さんと井川君は私のお客様で、あっ申し遅れましたが私は小さな喫茶店を営んでおりまして　それで親しくさせて頂いています」

「さようですか　それでは本題に入りましょう　あなたが言付かったという娘の伝言をお聞きしましょう」

「実は私は美香さんの使いの者ではありません　そう言わなければ会っては頂けないと思いましたので嘘をつきました　すみません」

「何ゆえ嘘までついて此処に」

「佐々木様に私の話を聞いていただいてどうしても確認したいことがあったのです。お願いしますどうか私の話を聞いて頂けますでしょうか」

「偶然の出会いなどこの世にはないと誰かが言っていたな　あなたと出合った事も必然と受け止めお話しを伺いましょうか」

「ありがとうございます　私がこれから話す事が間違っていたらお許しください　佐々木様のお父様は佐々木剛という名前で母の名は静子違いますか」

美香の父（佐々木悟朗）は目を見開き田鶴子を凝視した。