涙が幸せの泉にかわるまで

父の消息

眠れぬ夜10

「今日の井川君わたし嫌い、こんな時こそ逃げないでしっかり美香さんと向き合わなきゃだめなんじゃないの」

「ママに言われたよ　寄り添ってあげなさいって」

「ママの言う通りそれが一番よ　女は好きな人にすべてを話しているかっていったらほとんどの人が話せないでいると思うのよ　だから美香さんに限ってのことじゃないわ　女って辛いとき好きな人に黙って抱きしめてもらうだけで、もうそれだけで癒され充たされるの　だから井川君は黙って美香さんを抱きしめてあげればいいのよ」

「そういえば最後に美香さんを抱きしめたのはいつだったかな、帰り際キスした先週か、いや・・」

「はいはい、ごちそうさま　とにかく余計なことは詮索しないで手紙の件も知らないふりして何もなかったことにするのが一番じゃないかな　そして美香さんが物思いにふけったり元気がなかったらしっかり抱きしめてあげて、そしたら美香さんまた頑張ろうって気持ちにきっとなれるわ」

「佐知ありがとう、また借りを作ってしまったな」

「そうねいっぱい貯まったわね、何かおねだりしようかな」

「佐知の要望なら俺なんでも聞くよ」

「何でもって言うのは訂正した方がいいんじゃないかな」

「どうして」

「だって私がもしもよ、昔のようにその大きな胸に抱きしめてっておねだりしたら聞いてくれるの」

「・・・・」

「またなの～井川君マジに受け止めちゃった　いやだな冗談よ冗談」

「そんな冗談はホント心臓に悪いよ　佐知のおねだりは色恋なしでお願いします」

「じゃ私のために時間を作って美味しいもの食べに連れて行って」

「よし、それならいつでもＯＫです」

「楽しみにしているわね　もう遅いからから電話切るね、お休みなさい」

「話し聞いてくれてサンキュー　おやすみ佐知」


雅和の電話が切れたのを確認した佐知はカーテンを開き夜空を見上げた。雅和と出会った日と同じ夜空が目の前に広がっていた。

さっきのおねだりは冗談なんかじゃないのに・・・

佐知の脳裏に遠い昔の日がまた甦っていた。

愛する美香さんでいっぱいの人が私になぜ飛んで会いに行きたいなんて言うの　心を惑わす言葉なんて聞きたくないのに　心の無い言葉なんか紙くずと一緒だわ　今夜眠れそうもないのは雅和のせい・・雅和の馬鹿・・