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父の消息

伝言4

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それは満面な笑みを讃えた赤ちゃんの写真だった。

「とても古い写真のようですが この赤ちゃんは美香さんですか」

「娘の、美香の面影はありますか」

「はい残っています ね井川君」

「笑う彼女を最近見ていないけど美香さんは今も写真みたいに愛らしい笑顔で笑いますよ」

「そうですか成長した今も・・娘は昔のままの笑顔で笑っているのですね 思えば別れの日、私は一枚の写真をポケットに忍ばせていました 美香の母親は私の妻への気遣いから写真を持ち出す事を許してはくれなかった 私がこの写真を自宅に飾ったのは妻が亡くなってからでした 妻の存命中この写真を手にとることは一度もありませんでした それが早苗との約束のような気がしてこの写真を封印していたのです 妻は子供を産めない体でした 妻が一番悲しむであろう子供の存在があっても隠し通してほしいと早苗は頭を下げて私に言いました その言葉がずっと頭から離れず妻には知られまいと骨を折ったものです しかし妻はすべてを知っていました 妻の葬儀が終わり半月たったころ私は美香の写真を探しました 驚いたことに写真の下には手紙がありました それは妻の筆跡でした 書斎に入る事などない妻が何かの拍子に目にしてしまったのでしょう こう記されてありました 

この写真の子があなたの子なら私に遠慮せず父としての責任を果たして下さい わが子の成長を見ずして人生に後悔を残すことは止めて あなたはもう若くないのだから限られた時間をその大切な日々を無駄にしてはいけないわ あなたの子供が、あなたに血を分けた我が子がいるのなら会わなければ駄目だ・・と さらに追伸がありました。
あなたの子供ならきっといい子に違いないから会って抱き締めて詫びてくるべきだと・・そのかすれたインクの文字に妻の悲しみを垣間見た気がして私は涙しました。妻の手紙に後押しされ娘を探そうとしていた矢先こんな体に本当に無念です」

「お父さんが美香さんを探そうとしていたことを知ったら彼女も喜びますよ お体の調子の良い時に一度美香さんを見舞っていただけませんか 僕が病院にお連れしますから」

「こちらからも是非ともお願いしたい美香に会わせて下さい そのときは又連絡を差し上げましょう 私をよくぞ探してくれた君達に感謝します 本当にありがとう」

「ではご連絡お待ちしています 今日はお話を聞いて頂き有難うございました」


立ち上がった佐々木はガウンから細い腕を覗かせ手を伸ばしてきた。佐々木のその手に小さな箱が握られていた。


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