涙が幸せの泉にかわるまで

寿佳穏 kotobuki kanon

文字の大きさ
上 下
126 / 315
不思議な三角関係

決心11

しおりを挟む
雅和は多忙になり毎週土日を利用して美香を見舞っていた。佐知の勤務が終わる少し前に入ってきたメールは雅和からだった。

SIGNPOSTで待っている
美香さんの父親の件で話したいことがあるんだ

佐知を待つ雅和はカウンター席にひとり座っていた。

「今日はおひとり」

「彼女そろそろ来るころなんだけど、ママ珈琲お願いします」

「はい、いつものストロングね」

雅和は写真が貼られたボードを物珍しそうに眺めていた。

「ママ、このボード昔もあったっけ」

「あぁこれ、貴方たちが来てた頃からあったわよ 当時は写真もまばらで気に留める人もいなかったのよ 今はこの通り貼る場所もなくてどうしようかと思っているの」

「ほんとすごい数だな」

何気に見上げた目の先に見覚えある顔があった。

「ママ、左上に貼られた写真を見せてもらえますか その黒いジャケットを着た女性」

「知ってる人なの、ちょっとまって はいどうぞ」

どこか寂しげに微笑む写真の女性は美香だった 日付から出張のときに撮ったものとわかった。

「この女性はひとりで此処に」

「えぇ、でも誰かに聞いたとかでこの店を知っていたみたいね」

それきり口を閉ざした雅和はカウンターに伏していた。

「いらっしゃいませ」

「彼女来たから奥の席に移る?」

ママに促され二人はいつもの席に腰をおろした。

「美香さんに会ってから此処にきたの?」

「今日は平日だし俺が来てること知らないから今日は会わないで帰るよ 佐知に頼まれた父親の消息がやっとわかったから話そうと思って」

「見つかったの こんなに早く見つかるなんてすごいわ」

「付き合いのある興信所に協力してもらって見つけ出したんだ 俺一人じゃこうはいかないよ」

「本当にご苦労様でした それでお父さんはどこに?元気にしているの」

「美香さんの父親は生きていたよ 奥さんを数年前に亡くして最近老人専用のケアマンションに移ったそうだ 体の具合が良くないらしくここ数年は入退院の繰り返しらしい 確認の電話をしたときも入院中だと言われたよ 退院したら電話もらうようお願いしてあるけど会う段取りまで漕ぎつけるのはまだ先になりそうだな」

「入院しているのね心配だわ でも生きてらしてよかった、これで美香さんの願いが叶えられるわね」

「あぁこれでなんとか叶えてやれそうだな」

隣の席にコーヒーを運んできたママが二人の前で足を止めた。

「話の途中ごめんなさいね さっきの写真の人、二人のお知り合いのようね」

「俺の恋人です」

「マァ新旧恋人交えて親しいなんて不思議な三角関係なのね 写真の彼女はいまも忘れられないお客様なの 初めて店に来た時のそれはもう思いつめた寂しげな顔が痛々しくてそれで何かあったら力になるからと名刺に携帯番号を書いて渡したわ あれから彼女のことがずっと気になっていたのよ 今どうしているのかしら彼女元気」

「彼女は入院しています」

ママはか細い小さな声でつぶやいた

やっぱりそうことになったのね・・

「ママ聞きとれなかったからもう一度言って」

「あっご免なさい今のはひとり言だから気にしないで 二人は棒ほど願って針ほど叶うって言葉聞いたことあるでしょ 人生には思うようにはならないことがいっぱいあるわよね でも願えば人生さえも変えられるそう信じて決して諦めないことね あなた達は力を合わせ彼女を未来永劫に背負い続ける運命よ だからあなたたちは」

カラン・カランとドアの開く音が来客を知らせていた。ママは話しを中断させドアの前に立っていた客の方に体をひねった

「いらっしゃいませ ごめんなさいね会話中の邪魔してしまって」

ママはカウンターに戻っていった。

「ママは美香さんの何かを知っているような口ぶりだったわ それに私たちのこともなにか含みを持たせて」

「なんだか薄気味悪いな 見て鳥肌たってるよ」

気を取り直し雅和は一枚の写真を佐知に向けてテーブルに置いた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

🍶 夢を織る旅 🍶 ~三代続く小さな酒屋の主人と妻の愛と絆の物語~

光り輝く未来
現代文学
家業を息子に引き継いだ華村醸(はなむら・じょう)の頭の中には、小さい頃からの日々が浮かんでいた。 祖父の膝にちょこんと座っている幼い頃のこと、 東京オリンピックで活躍する日本人選手に刺激されて、「世界と戦って勝つ!」と叫んだこと、 醸造学の大学院を卒業後、パリで仕事をしていた時、訪問先のバルセロナで愛媛県出身の女性と出会って恋に落ちたこと、 彼女と二人でカリフォルニアに渡って、著名なワイナリーで働いたこと、 結婚して子供ができ、翔(しょう)という名前を付けたこと、 父の死後、過剰な在庫や厳しい資金繰りに苦しみながらも、妻や親戚や多くの知人に支えられて建て直したこと、 それらすべてが蘇ってくると、胸にグッとくるものが込み上げてきた。 すると、どこからか声が聞こえてきたような気がした。 それは、とても懐かしい声だった。 祖父と父の声に違いなかった。 ✧  ✧ 美味しいお酒と料理と共に愛情あふれる物語をお楽しみください。

おれ、ユーキ

あつあげ
現代文学
『さよならマユミちゃん』のその後を描くスピンオフ作品。叔母のマユミちゃんが残してくれた家でシェアハウスを始めた佑樹、だがやってきたのは未知の感染症だった。先の見えない世界で彼が見つけたものとは――?80年代生まれのひりひり現在進行形物語!

風が告げる未来

北川 聖
現代文学
風子は、父の日記を手にしたまま、長い時間それを眺めていた。彼女の心の中には、かつてないほどの混乱と問いが渦巻いていた。「全てが過ぎ去る」という父の言葉は、まるで風が自分自身の運命を予見していたかのように響いていた。 翌日、風子は学校を休み、父の足跡を辿る決意をした。日記の最後のページには、父が最後に訪れたとされる場所の名前が書かれていた。それは、彼女の住む街から遠く離れた、山奥の小さな村だった。風子は、その村へ行けば何か答えが見つかるかもしれないと信じていた。

六華 snow crystal 8

なごみ
現代文学
雪の街札幌で繰り広げられる、それぞれのラブストーリー。 小児性愛の婚約者、ゲオルクとの再会に絶望する茉理。トラブルに巻き込まれ、莫大な賠償金を請求される潤一。大学生、聡太との結婚を夢見ていた美穂だったが、、

その男、人の人生を狂わせるので注意が必要

いちごみるく
現代文学
「あいつに関わると、人生が狂わされる」 「密室で二人きりになるのが禁止になった」 「関わった人みんな好きになる…」 こんな伝説を残した男が、ある中学にいた。 見知らぬ小グレ集団、警察官、幼馴染の年上、担任教師、部活の後輩に顧問まで…… 関わる人すべてを夢中にさせ、頭の中を自分のことで支配させてしまう。 無意識に人を惹き込むその少年を、人は魔性の男と呼ぶ。 そんな彼に関わった人たちがどのように人生を壊していくのか…… 地位や年齢、性別は関係ない。 抱える悩みや劣等感を少し刺激されるだけで、人の人生は呆気なく崩れていく。 色んな人物が、ある一人の男によって人生をジワジワと壊していく様子をリアルに描いた物語。 嫉妬、自己顕示欲、愛情不足、孤立、虚言…… 現代に溢れる人間の醜い部分を自覚する者と自覚せずに目を背ける者…。 彼らの運命は、主人公・醍醐隼に翻弄される中で確実に分かれていく。 ※なお、筆者の拙作『あんなに堅物だった俺を、解してくれたお前の腕が』に出てくる人物たちがこの作品でもメインになります。ご興味があれば、そちらも是非! ※長い作品ですが、1話が300〜1500字程度です。少しずつ読んで頂くことも可能です!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大人への門

相良武有
現代文学
 思春期から大人へと向かう青春の一時期、それは驟雨の如くに激しく、強く、そして、短い。 が、男であれ女であれ、人はその時期に大人への確たる何かを、成熟した人生を送るのに無くてはならないものを掴む為に、喪失をも含めて、獲ち得るのである。人は人生の新しい局面を切り拓いて行くチャレンジャブルな大人への階段を、時には激しく、時には沈静して、昇降する。それは、驟雨の如く、強烈で、然も短く、将に人生の時の瞬なのである。  

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...