涙が幸せの泉にかわるまで

寿佳穏 kotobuki kanon

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不思議な三角関係

揺らぐ心8

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早めに家を出た佐知は陶芸教室で焼いた花瓶に庭に咲いていた黄色の小花を挿して美香の病室に向かった。

「おはよう美香さん、少しお邪魔してもいいですか」

美香はベッドから白い腕を伸ばし手招きしてみせた。

「家から持ってきたお花、窓辺に置きますね」

美香は顔の前で両手をあわせていた。

「井川君が戻るまで私に美香さんのお世話をさせてもらいたいの、といっても仕事があるから仕事前の朝と夕方しかこれないんだけど。なんでもしますから遠慮しないで言って下さい」

美香がメモを差し出した。

佐知さんよろしくね お花ありがとう わたし黄色い花が大好きだから嬉しい まだ声が出せないので私は筆談で返しますね

「声が出ないのはつらいですね でも自分から声を出そうとしないといつまでも声は出ないそうですよ 少し声を出す練習してみませんか」

病気が原因でこうなったんだもの無理よ いくら頑張ってもそう簡単には無理だわ

「そんなことない、病気だからなんて言わないで 声を出そうともしないで諦めてしまうなんて美香さんらしくないわ 気持ちが負けたら病気は退散してくれませんよ」

佐知さんの言うことは正論、でも今の私は無気力でアパシーなの

「無気力症候群のアパシー?だったら何かに向けて努力する気力を沸かせればいいわ 声が出せたら言葉も話せるそしたら井川君と会話が出来る 楽しいおしゃべりがいっぱい出来る 筆談なんかもう必要なくなる どう?少しは声を出す気持ちになってくれました」

そうね、チャレンジしてみようかな

「じゃ、あ~い~何でもいいですから声を出すつもりになって大きく口をあけてみて」

ふぅ~ふぁ~くるしい息づかいだけが繰り返された美香の額には汗がにじんでいた。

「もうこれくらいにしましょ 美香さんの苦しそうな顔を見て後悔しています 医者でもないのに余計なことを言ってしまってごめんなさい」

佐知が頭を下げたとき美香は呻きに似た声をあげた

「ひぃい・おぉ・お」

「いま、いいのって・・声が美香さんの声しっかり聞こえました」

「うぅ・うう」

「うん・・って言いました?」

美香は親指と人差し指で丸を作った。佐知は手をたたいて喜んでいた。

「あっ時間だわ ごめんなさい仕事なので失礼します また顔を見に来ますね」

あぁ・あ・おぉ~

「ありがとうって言ってくれたのですね どういたしまして私の方こそ喜んでもらえて嬉しいです ありがとう美香さん」

美香は震える手を差し出してきた。佐知は握手したその柔らかな美香の手のぬくもりが嬉しく忘れられなかった。

それからも二人は筆談ではあったが交流を重ねていた。週が開け出勤した佐知を見つけた同僚が駆け寄ってきた。

「さっちゃん、井川さんと会わなかった さっちゃんにってこの菓子折り置いていったの 木内さんをお世話してもらったお礼だって」

「私の好きな紅茶のシフォンケーキだ休憩の時みんなで食べましょう」

この日を境に美香に会いに行く佐知の足はピタリと止まった。雅和が戻ったいま二人の時間を邪魔したくない気遣いからだった。

二人の世界に悲しいかな私はお邪魔虫雅和とは全て終わってしまったのに、わかっているのに未練を絶ちきれず自分を偽り善人ぶっている私は・・・最低な人間・・・


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