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不思議な三角関係

揺らぐ心7

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「おしゃべりはそのくらいにしてね、患者さんが疲れますよ」

「すみません」

「この日を待っていたあなたの気持ちはわかるけど木内さんは今日検査の予定が入ってるの 患者さんにとって検査はとても疲れるのよ 木内さんも出来るだけ安静にして体を休ませなきょだめよ あなたは付添い人なのよね その付添いが患者を疲れさせてどうするの」

「すみません」

美香は看護士と筆談をしていた。笑い声を上げていた看護士がそのメモを雅和に握らせ出て行った。


「飲み物買って来るけど美香さんは ✕か、いらないんだね」


美香が看護士に書いたメモを見ながら雅和は売店へと歩いていた。

看護師さん、私の大切な付き添い人をいじめないで 確かに空気を読めない所あるけど純粋で子供のまま大人になったような人なの 私にはこの世で一番大切な人だからお手柔らかにお願いします

雅和の顔は恥ずかしさで火照りだしていた。ふと佐知の言葉を思い出した。

今度こそ本物の強い男になって美香さんを守ってあげて

そうだよな、美香さんが元気になったらプロポーズしよう

雅和は美香が自分の子を宿している事実その命が消えようとしている現実も知らず幸せな未来設計に思いを巡らしていた。

検査に向う美香は笑顔で手をふっていた。直立不動で厳しい顔の雅和に看護士が言った。

「木内さんは大丈夫よ あなたが緊張してどうするの、そんなに情けない顔してないでほら笑ってあげなさい 木内さんが戻るまで時間があるから肩の力抜いて待っていて、まるであなたの方が患者みたいね」

看護師は豪快に笑い美香の車椅子を押して出て行った。

あの看護士のおばさん、すごいキャラだな 明らかに俺をいじって楽しんでるって感じ 年配者の目には若輩の俺なんか子供で頼りなく映って見えるんだろうな

気を取り直し携帯電話を持って院外にでた。毎日欠かさず事務所にかける電話は雅和の日課だった。

「てっちゃんお疲れさまです 仕事は順調ですか」

「お前の仕事は俺が責任もってやってるから心配するな ただ昨夕困ったことがおきた 佐伯さんから依頼された土地相続の件だがうちの担当者がとんでもないミスをしでかした 俺にもチェックの甘さがあったが100%こっちの落ち度だ」

「それで事態は収拾できそう」

「ああなんとかなりそうだ 言いにくいんだが責任者であるがお前が顔を出さないわけにはな」

「わかった、事務所の代表としてきちんと謝罪すべきだな いまから事務所に戻るよ 話はそっちで詳しく聞く」

病室に戻ろうとした雅和は偶然佐知と鉢合わせした。

「あっ、井川君来てたの」

「いいタイミングで会えてよかったよ 仕事でいまから静岡に戻るんだ 美香さんのこと君に頼んでもいいかな 仕事が終わったら急いで帰ってくるからそれまで美香さんを」

「了解よ、心配しないで仕事に行って」

「じゃ頼んだよ」

病室に美香の姿はなかった。検査はいつ終わるのだろうと見上げた先の時計を見た雅和はメモをおいて病室を出た。

美香さんへ
急な仕事で静岡に戻る。仕事が済んだら急いで帰るから寂しいだろうけど我慢して待っててくれ。 美香さんのことは佐知に頼んである。力になってくれるよ。じゃ俺は仕事モードに切り替えて男の戦場に行って来ます雅和より


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