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美香のルーツ
私は父なし子14
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母早苗の決意は固く父悟朗は母の申し入れを受入れざるなかった。愛を精算させた二人は子供の存在だけで辛うじて繋がっていた。悟朗は仕事でどんなに帰りが遅くなろうと我子美香の顔をみてから妻の待つ家庭に帰るのが日課になっていた。ある日美香の発した言葉に母は慌てた。
「パッパぱっぱ」
パパとも聞こえた美香の声に早苗は急いで転居先を見つけ悟朗に切り出した。
「悟朗さん、美香と明日ここを出て行きます ありがとうございました」
「そうか今日で終わりか、とうとう美香とお別れか」
誕生日が目前に迫った6月、母早苗と美香は父悟朗との関りを絶った。悟朗は最後だねと言って美香を抱きしめ泣き咽び苦悩に満ちた顔で去っていった
この日が愛いし会い共に添い遂げようとしていた母と父二人の愛の幕ひきとなった。
その後、母早苗は小さな幼児向けの英語教室を開き生計を立てた。美香の側にはいつも早苗がいた。寂しい思いした記憶はなかった。しかし無邪気な生徒は時に大人もたじろぐ質問を浴びせてきた。
「美香ちゃんにパパがいないって本当 お父さん死んじゃったの
先生、離婚したの」
「美香ちゃんは父なし心だってほんと」
「先生、父なし子ってなあに」
明らかに大人の会話を聞いての質問に違いなかった。
「先生にそんなこと言っちゃいけません 先生すみません」
「気にしないで下さい この年齢の子供は何でも知りたがってストレートに投げかけてくるものです こんなとき皆さん大人は逃げないで向き合ってください 今から先生が美香ちゃんのお父さんのお話をしますから聞いてね 先生は大好きだった美香ちゃんのお父さんとさよならしたの だから美香ちゃんにお父さんがいないのよ さようならした時、先生のお腹には赤ちゃんがいたのそれが美香ちゃんなの
ねぇみんなは分かっていると思うけど命は大切なものよね 小さな虫さんにも大きな木や小さな葉っぱにもみちばたの草花にも命があるの。先生は命あるものすべてを殺したり粗末に出来ない みんなもそうでしょ、だから先生にはお腹の美香ちゃんもとっても大切だったの 美香ちゃんにはお父さんがいないけどこれからも仲良くして頂戴ね」
人に父のことを問われるといつも何も言えずうつむいてしまう美香に母早苗が強い口調で言った。
どんな人の人生にも隠さなければならない過去などないのよ 過去が死と同じなら私達にも誰にも暗い過去などないの 美香とお母さんは今を生きている 未来だけを見つめひたすら生きているお母さんは胸を張って生きてその姿を美香に見せ続ける だから美香も胸を張ってたくましく生きて行ってね
話し終え優しく抱き締めてくれた母の笑顔が浮かんでいた。
子供に問われたことなど口を濁し繕えばよかったのではないか、でもそれは母の歩いてきた人生を否定するのと同じだったのかもしれないと美香は思った。
あのとき逃げずに正直に話せてよかった。あの爽快感は今も忘れられない 人生に失敗なんて一つもないの 失敗は次の幸せに繋がる大切な人生の一齣なんだもの、そう言いはなった母の自信に満ちた凛とした美しい顔を美香は今も忘れられなかった。
子供を身ごもった今、存命ならばたった一人の肉親・父の存在は美香にとって堪らなく恋しいものだった。
「父と他人の母には過去でも血縁の私と父は紛れもなく永劫繋がっている 母が愛した父はいまも健在なのだろうか 父に会いたい父の腕に抱かれた昔のように抱きしめてもらいたい 父の愛に触れてみたい お父さんって呼んで甘えてみたい」
無性に父が恋しくて恋しくて子供のように泣きじゃくった。美香は枕に顔をうずめ一晩中忍び泣いていた。
「パッパぱっぱ」
パパとも聞こえた美香の声に早苗は急いで転居先を見つけ悟朗に切り出した。
「悟朗さん、美香と明日ここを出て行きます ありがとうございました」
「そうか今日で終わりか、とうとう美香とお別れか」
誕生日が目前に迫った6月、母早苗と美香は父悟朗との関りを絶った。悟朗は最後だねと言って美香を抱きしめ泣き咽び苦悩に満ちた顔で去っていった
この日が愛いし会い共に添い遂げようとしていた母と父二人の愛の幕ひきとなった。
その後、母早苗は小さな幼児向けの英語教室を開き生計を立てた。美香の側にはいつも早苗がいた。寂しい思いした記憶はなかった。しかし無邪気な生徒は時に大人もたじろぐ質問を浴びせてきた。
「美香ちゃんにパパがいないって本当 お父さん死んじゃったの
先生、離婚したの」
「美香ちゃんは父なし心だってほんと」
「先生、父なし子ってなあに」
明らかに大人の会話を聞いての質問に違いなかった。
「先生にそんなこと言っちゃいけません 先生すみません」
「気にしないで下さい この年齢の子供は何でも知りたがってストレートに投げかけてくるものです こんなとき皆さん大人は逃げないで向き合ってください 今から先生が美香ちゃんのお父さんのお話をしますから聞いてね 先生は大好きだった美香ちゃんのお父さんとさよならしたの だから美香ちゃんにお父さんがいないのよ さようならした時、先生のお腹には赤ちゃんがいたのそれが美香ちゃんなの
ねぇみんなは分かっていると思うけど命は大切なものよね 小さな虫さんにも大きな木や小さな葉っぱにもみちばたの草花にも命があるの。先生は命あるものすべてを殺したり粗末に出来ない みんなもそうでしょ、だから先生にはお腹の美香ちゃんもとっても大切だったの 美香ちゃんにはお父さんがいないけどこれからも仲良くして頂戴ね」
人に父のことを問われるといつも何も言えずうつむいてしまう美香に母早苗が強い口調で言った。
どんな人の人生にも隠さなければならない過去などないのよ 過去が死と同じなら私達にも誰にも暗い過去などないの 美香とお母さんは今を生きている 未来だけを見つめひたすら生きているお母さんは胸を張って生きてその姿を美香に見せ続ける だから美香も胸を張ってたくましく生きて行ってね
話し終え優しく抱き締めてくれた母の笑顔が浮かんでいた。
子供に問われたことなど口を濁し繕えばよかったのではないか、でもそれは母の歩いてきた人生を否定するのと同じだったのかもしれないと美香は思った。
あのとき逃げずに正直に話せてよかった。あの爽快感は今も忘れられない 人生に失敗なんて一つもないの 失敗は次の幸せに繋がる大切な人生の一齣なんだもの、そう言いはなった母の自信に満ちた凛とした美しい顔を美香は今も忘れられなかった。
子供を身ごもった今、存命ならばたった一人の肉親・父の存在は美香にとって堪らなく恋しいものだった。
「父と他人の母には過去でも血縁の私と父は紛れもなく永劫繋がっている 母が愛した父はいまも健在なのだろうか 父に会いたい父の腕に抱かれた昔のように抱きしめてもらいたい 父の愛に触れてみたい お父さんって呼んで甘えてみたい」
無性に父が恋しくて恋しくて子供のように泣きじゃくった。美香は枕に顔をうずめ一晩中忍び泣いていた。
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