涙が幸せの泉にかわるまで

寿佳穏 kotobuki kanon

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美香のルーツ

私は父なし子10

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妊娠したおなかの子供をどうすべきか母早苗はすでに覚悟を決めていた。親を亡くし悟朗を無くしたら早苗に残されたものはお腹の子供だけ。


いつか一緒になれる日まで二人で頑張ろう そう言ってくれた父悟朗と交わした約束は母早苗にはすでに効力のない誓約書になっていた。


これからこのお腹の子と二人で生きて行こう 自ら命を絶った父が心を痛めた愛にけじめをつけよう


そんな決意の一方で未練の女心がムクムクと頭をもたげ出し早苗を苦しめていた。 


自分のマインドを常にきれいにして生き続けなさい。それが両親への一番の供養になる。勝随和尚の言葉が繰り返し聞こえていた。


「お父さん悟朗さんとは終わりにする でも子供だけは産んでもいいでしょう この子の命を消したくない・・今のお父さんにならわかるよね わたし生まれ変わって頑張る、頑張って見せるから」


車窓の流れ行く青雲を見上げ母は誓った。帰宅すると留守番電話の履歴が点滅していた。


「君が今日帰ってくると今連絡みたところだ お帰り大変だったね 僕は急な出張で君を出迎えてあげられないんだ こんなとき君を抱きしめてあげられなくてすまない 君のために買った土産を持って真っ先に会いに行くから待っててくれ」


未練まだ残る母早苗の思いは複雑だった。肉親を亡くした悲しみは一夜で癒されるはずもなく孤独感に襲われていた。かける相手のいない電話に幾度も手を伸ばしていた。夜更けに誰かに電話をかけることなど一度もなかった。父悟朗との楽しいひと時を過ごしたあと早苗はいつも一人だった。魔法が解けてゆくように一人の世界に引き戻された。独り占め出来るのは二人で過ごす時間だけだった。


自宅に帰ったらあの人は奥さんのもの 今頃あの人は奥さんと何をしているのだろう 夫婦なら一緒にいるのは当たりなのに・・


すべて承知の上なのに不安で眠れぬ夜が幾度も襲ってきたわと母早苗は哀しげに語った。父が独身なら母はこんなに悩むことはなかっただろう、一緒に朝まで眠りにつきたい日もあったという母の女心が美香には切なすぎた。女の幸せを求めようにも母早苗が抱く願いすべてが叶わぬ夢だった。母がぽつり言った言葉が胸に響いた。


「許されない愛、不倫はそういうものなのね 充たされない愛ゆえ燃えさかる でもその愛は幸せをくれはしない 誰ひとりも幸せにはなれないの」


父悟朗には守らなければならない家庭があり奥さんがいた。愛人の母早苗は父を煩わせ重荷になることを嫌った。愛の欲望のいかなる感情も制してきた。我慢してきた愛に気づいた早苗は電話に手にした。


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