涙が幸せの泉にかわるまで

寿佳穏 kotobuki kanon

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予期せぬ巡り合わせ

あらたな恋人

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雅和は仕事を終えると美香のマンションに向った。キーケースを取り出しいつものように合鍵で部屋に入った。 今日も珈琲の香りが外廊下まで漂っていた。珈琲の香りは雅和を手招きするように美香の部屋へ誘ってくれた。 

雅和が訪ねてくる日、美香は決まってキリマンジャロを用意した。強い酸味とキレのある苦味そして濃厚なコクのキリマンジャロ。中でも特にkibo産のキリマンジャロが雅和のお気に入り。美香はと言えばジャマイカ産のブルーマウンテン。ブルーマウンテンの卓越した香りと調和のとれた味わいが好きだった。互いに好みは違うが珈琲には独自のこだわりを持っていた。

美香と雅和の出会いは珈琲ショップ。厳選されたコーヒー豆を自家焙煎し量り売りしてくれるお店だった。幾度もの偶然が重なり珈琲談議に花が咲き親しくなった。


「まー君、なにかあったでしょ」


「美香さんにはかなわないな」


「まー君のことなら何でもわかるわ」


4つ年上の美香は頼りになる存在、雅和の恋人。何かあるごと顔を歪め眉根に曇りを見せやって来る雅和。今日も一物を抱えやって来たことなど美香にはお見通しだった。雅和は美香のいるキッチンに体を捻じった。


「美香さん、もし、もしもの話だけど聞いてくれる もし美香さんに腹違いの兄弟がいるとしたら驚くよね」


美香はサイホォンに神経を研ぎ澄ませていた。微妙な加減でのの字を書くように細くゆっくりとお湯を注ぎ入れていた。


「ねぇ美香さん、聞いてる」


「あっごめん、ごめんね 聞こえてるよ~ それでいたの?その義兄弟」


「俺のことだってわかったんだ するどいなあ まだ確かめた訳じゃないからわからないんだ」


珈琲を入れたペアカップを持って美香が言った。


「根拠も確証もない話じゃどうにもならないわね 兄妹がいたとしてそれが事実なら受け入れるしかないんじゃないの」


「いつも冷静だな 美香さんは」


「冷静か・・私、妾の子だから特別なのかも」


「ごめん、昔のこと思い出させてしまったみたいだね」


「平気よ、私はもう子供じゃないのよ 昔のことは吹っ切れているわ さぁコーヒー飲みましょう、冷めちゃうよ」


世間の視線をかわし卑屈にならず生きてきた男勝りの美香がそこにいた。雅和には姉のように頼れる存在だった。美香がすべてをそぎ落とし女を顕にする姿はたまらなかった。輝かんばかりの妖艶さを漂わし雅和を魅了した。 涙してきたこの人を幸せにしたいと雅和は思った。二人で幸せになりたいと静かな寝息を立てている美香を雅和は強く抱きしめた。今夜は美香の柔肌に一晩中癒されていたかった。


「うぅ~ん、いたぁ~い、まだ起きてるの もう寝ましょう」


「ごめん、起こしてごめん、おやすみ美香さん」


美香の寝顔に頬を寄せ雅和は眠りについた。


「おはよう、ちゃんと眠むれた」


「あっ昨日はごめんね、起こしちゃって」


「それはいいの、私だって悩み事を抱えていると寝付かれないもの、生きていれば一筋縄ではいかないことだって起こるわ だけど解決法は簡単だわ こういう時は自分で動くしかないの 白黒つけてすっきりしたいなら自分で真実を確かめればいいのよ」


「美香さんは朝から絶好調だな」


「降りかかる問題や苦しみには意味があると思うのよ 人生に無意味なことは一つも起こらないって言うでしょ 苦のトンネルを抜ければ必ず楽になれるわ、雅和が探している終着点に辿り着きたいなら自分の足と頭を使って疑問を解き明かしてみたらどう?事実は小説より奇なりってね 想像もしなかった事がわかったりするかもしれないわ まー君は真相が知りたくないの」


「俺は真実を知りたい」


「それなら決まり、確かめるしかないわね」


「そうだな、やってみるか」


「これで心配事がなくなって今夜はぐっすり眠れるわね でもまー君は熱くなると歯止めが利かなくなるから心配だな 仕事には支障をきたさないようにしないとね さあ今日も一所懸命生きますよ~ まー君も早く顔を洗って支度しないと会社に遅れるわよ 朝ごはん出来てるからちゃんと食べていってね」


「愛情いっぱいの朝ごはんいただきま~す」


美香の後ろ盾もあり雅和は父の過去を探るべく動きだそうとしてした。

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