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父(柳木沢)の日記帳
忘れられない人4
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由里子の喪失感は年月と共に薄れていた。そんな柳木沢に人生の転期が訪れた。上の兄二人はすでに妻子があり家庭を持っていた。長男夫婦と同じ屋根に住む柳木沢に父親は業を煮やしていた。
「三男坊のお前は次男と同じ遅かれ早かれいずれ家を出なきゃならん そろそろ家を構え独り立ちしてはどうだ」
両親が勧める結婚話には耳に蛸が出来る程うんざりしていた。これまでも柳木沢は両手で数え切れぬ程のお見合いをしていた。しかし結婚する気など毛頭ない柳木沢に家族は寸分の期待さえ持てなくなっていた。柳木沢が応じる見合いはうるさい家族を黙らせるための手段に過ぎなかった。見合い後はお決まりの断りの電話を入れるその繰り返しだった。一度だけ顔を合わせる事なく断った見合い話があった。
婿を探している旧家からの申し入れだった。是が非でも婿にとの再三の申し入れに一度は承諾したものの婿の言葉を聞くたび柳木沢の体中に発疹が表れた。中学生の頃に初めて食したしめ鯖で猛烈なアレルギーを起こした時と同じだった。これじゃ見合いは無理だなと体中を掻き毟る柳木沢に家族の誰もが溜息をついた。何の因果かその見合い話が再度舞い込んできた。
「はっきり蹴りをつけないとまずいか 会うしかないな」
見合いの場も決まり順調に事は進んでいた。身内は今回もどんな口実で断ろうか頭を抱えていた。
「結婚する気なんて毛頭ないくせになんで懲りずに見合いするかなぁ」と雅和は苦笑しながら読み続けた。
今回も無駄だと誰もが諦めていた見合い話だったのだが事は急変した。
「年貢の納め時かな 結婚するか」
柳木沢の口から出た言葉に家族誰もが慌てふためいた。柳木沢の母親は腰を抜かしその横で父親は口にしたお茶を噴出した。ブッ・ブワッァ~
しっかり者の兄嫁も拭いていたお皿を落し叩き割った。ガッ・チャ~ン 断りの電話を入れる役目を任されていた兄嫁は「すみません」と頭を下げながら内心にんまりしていた。
これが雅和の父・柳木沢と母・美紗子の出会いだった。見合い写真とは違い目の前で見る美紗子はどこか由里子に似ていた。柳木沢がすんなり承諾したこの見合いに大層な意味はなかった。美紗子が由里子と似ていた悲しいかなそれだけの理由に過ぎなかった。一方母の美紗子は写真の柳木沢をいたく気に入っていた。会うことなく断られた後も諦めきれずにいた。
落胆の色を見せる美沙子が不憫で美沙子の父親が再度見合いを申し入れてきたのだった。相整った縁談に美沙子は愛ある家庭を夢みた。そんな美紗子に心あらずの父柳木沢の結婚は上手くいく筈もなかった。当然のごとく二人は雅和を授かるとほどなくして別居となった。
雅和は哀しかった。父柳木沢に怒りの感情が再び沸き起こった。
親父は間違っている 俺は愛せない人とは絶対結婚しない これじゃ母さんがあまりにもかわいそうすぎるだろ
「三男坊のお前は次男と同じ遅かれ早かれいずれ家を出なきゃならん そろそろ家を構え独り立ちしてはどうだ」
両親が勧める結婚話には耳に蛸が出来る程うんざりしていた。これまでも柳木沢は両手で数え切れぬ程のお見合いをしていた。しかし結婚する気など毛頭ない柳木沢に家族は寸分の期待さえ持てなくなっていた。柳木沢が応じる見合いはうるさい家族を黙らせるための手段に過ぎなかった。見合い後はお決まりの断りの電話を入れるその繰り返しだった。一度だけ顔を合わせる事なく断った見合い話があった。
婿を探している旧家からの申し入れだった。是が非でも婿にとの再三の申し入れに一度は承諾したものの婿の言葉を聞くたび柳木沢の体中に発疹が表れた。中学生の頃に初めて食したしめ鯖で猛烈なアレルギーを起こした時と同じだった。これじゃ見合いは無理だなと体中を掻き毟る柳木沢に家族の誰もが溜息をついた。何の因果かその見合い話が再度舞い込んできた。
「はっきり蹴りをつけないとまずいか 会うしかないな」
見合いの場も決まり順調に事は進んでいた。身内は今回もどんな口実で断ろうか頭を抱えていた。
「結婚する気なんて毛頭ないくせになんで懲りずに見合いするかなぁ」と雅和は苦笑しながら読み続けた。
今回も無駄だと誰もが諦めていた見合い話だったのだが事は急変した。
「年貢の納め時かな 結婚するか」
柳木沢の口から出た言葉に家族誰もが慌てふためいた。柳木沢の母親は腰を抜かしその横で父親は口にしたお茶を噴出した。ブッ・ブワッァ~
しっかり者の兄嫁も拭いていたお皿を落し叩き割った。ガッ・チャ~ン 断りの電話を入れる役目を任されていた兄嫁は「すみません」と頭を下げながら内心にんまりしていた。
これが雅和の父・柳木沢と母・美紗子の出会いだった。見合い写真とは違い目の前で見る美紗子はどこか由里子に似ていた。柳木沢がすんなり承諾したこの見合いに大層な意味はなかった。美紗子が由里子と似ていた悲しいかなそれだけの理由に過ぎなかった。一方母の美紗子は写真の柳木沢をいたく気に入っていた。会うことなく断られた後も諦めきれずにいた。
落胆の色を見せる美沙子が不憫で美沙子の父親が再度見合いを申し入れてきたのだった。相整った縁談に美沙子は愛ある家庭を夢みた。そんな美紗子に心あらずの父柳木沢の結婚は上手くいく筈もなかった。当然のごとく二人は雅和を授かるとほどなくして別居となった。
雅和は哀しかった。父柳木沢に怒りの感情が再び沸き起こった。
親父は間違っている 俺は愛せない人とは絶対結婚しない これじゃ母さんがあまりにもかわいそうすぎるだろ
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