涙が幸せの泉にかわるまで

寿佳穏 kotobuki kanon

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父(柳木沢)の日記帳

忘れられない人2

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由里子には高校生の妹と中学に通う弟がいた。大黒柱を亡くした家は貧窮した経済状況になっていた。悲しみの最中も借金の返済は待ってはくれず由里子は母や妹弟を置き去りには出来なかった。葬儀のあと由里子はアパートの解約を済ませ僅かな蓄えのすべてを母に渡した。由里子は母の横顔に流れ落ちる涙を見つけた。葬儀の時も見せなかった母が初めて流す涙だった。母を優しく抱きしめた傍らで妹と弟が安堵の笑顔をはじめて見せた。由里子は父に代わり堺家を守ろうと決めていた。

一方で戻らない由里子を案じる柳木沢だったが何も出来ずにいた。由里子の言葉がいまもトラウマになっていた。

「あなたのお金をすんなり受け取るとでも思ったの。哀れんでいるの、私はあなたと対等のつもりよ」

以前の二の舞になるのだけは避けたかった。


10月某日

夫婦なら由里子は躊躇なく僕のお金を受け取ってくれるだろうか 結婚すれば由里子を守ってやれる しかしそんなことを言ったところで相手にされないだろうな

「柳木沢くん、だからあなたはみんなから甘いって言われるのよ」

この言葉が僕の重石になっている

由里子と過ごした日々が恋しい、今夜も君を思い眠れそうにない


父柳木沢の太文字で書かれた由里子への思いが雅和には痛いほどわかった。 


地元の新聞社に就職したての柳木沢に由里子を養える力はなかった。由里子と夫婦になるなど柳木沢には夢物語でしかなかった。それでも互いを愛する二人は手紙と電話で辛うじて絆を繋いでいた。


「僕で力になれることは何でもする、由里子の力になりたいんだ」


「ありがとう、柳木沢くん」


どんな事があろうと決して甘えない女それが由里子。由里子を支え力になりたいと思う時いつも憐れんでいるのといって涙ぐんだ由里子が姿を見せた。

柳木沢の饒舌な口は次第に重くなっていった。由里子もまた妹弟の学費、家のローン生きるがためだけに黙々働き一向に光の見えない現状にクタクタの体を摩る毎日だった。


「柳木沢くんの声が聞きたい その声に癒されたい」


悲鳴を上げ始めた由里子の体はそれさえもさせてはくれなかった。愛の言葉に酔いしれる心の余裕もなく柳木沢との連絡は次第に遠のいていった


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