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父(柳木沢)の日記帳
忘れられない人1
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雅和の事務所には父・柳木沢が使っていた机が今も大切に置かれていた。その机の奥底からファイルに覆われた金庫が出てきた。
金庫の中には文庫本ほどの手帳が入っていた。どこかセピア色に染まったその手帳は柳木沢の若かりし頃の日記だった。日記には由里子という名前が頻繁に出てきた。
由里子は柳木沢の大学時代の恋人だった。柳木沢は自宅住まいのお気楽な学生だった。一方の由里子は苦学生といった言葉がぴったりの健気な女子学生だった。不自由なく育った柳木沢には地味で楚々とした由里子が新鮮だった。化粧っけのないその顔立ちは誰よりも際立って美しかった。由里子に想いを寄せる男子学生が五萬といて学部一の人気女子だった。柳木沢は人の気持ちなどお構い無しの強引さで由里子をものにした。
「なぜあんな男と」
由里子に思いを寄せる誰もが陰口叩き柳木沢はナイフの様な男子学生の視線を一挙に受けていた。
由里子は学費と生活費を自分で稼いでいた。夜遅くまでかけ持ちで家庭教師のアルバイトをしていた。柳木沢が由里子を独り占め出来るのは講義の時だけだった。由里子に柳木沢と愛を語り合う時間など皆無だった。二人だけの時間が欲しいと柳木沢は肩を落とした。
6月某日
多忙な由里子の体が心配だ 今日も由里子は顔色がよくなかった 連日のバイトで疲れているのだろう 比べて僕はこんな怠惰で呑気な生活ホトホト自分が情けない
柳木沢の日記は雅和の大学時代とさほど変わらなかった。柳木沢はほどなくして書店のバイトを見つけて稼いだお金は由里子のために使おうと張り切っていた。
8月某日
感情を表に出さない由里子の涙を初めて見た
「柳木沢君は私を哀れんでいるの
私はあなたと対等なお付き合いをしていたつもりよ あなたのお金をすんなり受け取るとでも思ったの 気持ちは嬉しいけどこういう事はしないで」
良かれとした事が怒らせる結果となった 女って者は硝子細工のように繊細で難しい物なのか 僕は一体どうすれば由里子に喜んで貰えたのだろう いくら考えてもその答えは見いだせない見つかりそうもない/
おやじも女の扱いに苦労したんだなと雅和の顔が緩んだ。
日記には卒業後の由里子との関係が詳細に書かれていた。郷里には戻らず塾の講師となった由里子は父柳木沢と愛を育んでいた。卒業から一年が過ぎた頃、由里子の父が突然の心臓発作で他界。帰郷した由里子はそのまま帰ってこなかった。アパートは蛻の殻になっていた。当時の柳木沢と由里子の会話まで記されていた。
「久しぶりに家に帰ってくるね」
「ゆりちゃんずっと働き詰めだったからね のんびり家族に甘えて体を休めて来いよ」
「ありがとう、じゃ柳木沢くん行ってきます」
何ら変わった素振りも見せず郷里に帰った由里子に何が起きたのか父柳木沢は友人に問いただした。口を閉ざしていた由里子の友人が重い口を開いた。
「柳木沢くんには知らせないでと口止めされて黙っていたの」
由里子本人でなく友人から聞かされた父親の死。知らされなかった家庭の事情、由里子の置かれた実状が乱れた文字でこと細かく書かれていた。
雅和は時間も忘れ父柳木沢の日記を読み続けた。
金庫の中には文庫本ほどの手帳が入っていた。どこかセピア色に染まったその手帳は柳木沢の若かりし頃の日記だった。日記には由里子という名前が頻繁に出てきた。
由里子は柳木沢の大学時代の恋人だった。柳木沢は自宅住まいのお気楽な学生だった。一方の由里子は苦学生といった言葉がぴったりの健気な女子学生だった。不自由なく育った柳木沢には地味で楚々とした由里子が新鮮だった。化粧っけのないその顔立ちは誰よりも際立って美しかった。由里子に想いを寄せる男子学生が五萬といて学部一の人気女子だった。柳木沢は人の気持ちなどお構い無しの強引さで由里子をものにした。
「なぜあんな男と」
由里子に思いを寄せる誰もが陰口叩き柳木沢はナイフの様な男子学生の視線を一挙に受けていた。
由里子は学費と生活費を自分で稼いでいた。夜遅くまでかけ持ちで家庭教師のアルバイトをしていた。柳木沢が由里子を独り占め出来るのは講義の時だけだった。由里子に柳木沢と愛を語り合う時間など皆無だった。二人だけの時間が欲しいと柳木沢は肩を落とした。
6月某日
多忙な由里子の体が心配だ 今日も由里子は顔色がよくなかった 連日のバイトで疲れているのだろう 比べて僕はこんな怠惰で呑気な生活ホトホト自分が情けない
柳木沢の日記は雅和の大学時代とさほど変わらなかった。柳木沢はほどなくして書店のバイトを見つけて稼いだお金は由里子のために使おうと張り切っていた。
8月某日
感情を表に出さない由里子の涙を初めて見た
「柳木沢君は私を哀れんでいるの
私はあなたと対等なお付き合いをしていたつもりよ あなたのお金をすんなり受け取るとでも思ったの 気持ちは嬉しいけどこういう事はしないで」
良かれとした事が怒らせる結果となった 女って者は硝子細工のように繊細で難しい物なのか 僕は一体どうすれば由里子に喜んで貰えたのだろう いくら考えてもその答えは見いだせない見つかりそうもない/
おやじも女の扱いに苦労したんだなと雅和の顔が緩んだ。
日記には卒業後の由里子との関係が詳細に書かれていた。郷里には戻らず塾の講師となった由里子は父柳木沢と愛を育んでいた。卒業から一年が過ぎた頃、由里子の父が突然の心臓発作で他界。帰郷した由里子はそのまま帰ってこなかった。アパートは蛻の殻になっていた。当時の柳木沢と由里子の会話まで記されていた。
「久しぶりに家に帰ってくるね」
「ゆりちゃんずっと働き詰めだったからね のんびり家族に甘えて体を休めて来いよ」
「ありがとう、じゃ柳木沢くん行ってきます」
何ら変わった素振りも見せず郷里に帰った由里子に何が起きたのか父柳木沢は友人に問いただした。口を閉ざしていた由里子の友人が重い口を開いた。
「柳木沢くんには知らせないでと口止めされて黙っていたの」
由里子本人でなく友人から聞かされた父親の死。知らされなかった家庭の事情、由里子の置かれた実状が乱れた文字でこと細かく書かれていた。
雅和は時間も忘れ父柳木沢の日記を読み続けた。
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