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追憶
もう一度だけ4
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逃げ場を失い観念した佐知は雅和に手を引かれホテルの部屋に入った。
目に飛び込んできたのは見覚えのあるツリー。懐かしい心痛むツリーがそこにあった。一年前のクリスマスが甦っていた。
「このツリーの前で俺は佐知を守ると誓った 今その気持ちに偽りはなく変わっていない」
「・・・・・」
「佐知、君は俺を裏切っていなかった。勝手な思い込みで君を責めたこと本当にすまないと思っている、許してほしい」
「・・・・・」
「親父がこの部屋に泊まったのは偶然なんかじゃなかった この部屋は親父にとって俺と同じ大切な思い出の場所だったんだ」
「大切な場所?」
「この部屋番号は俺と母さん二人の誕生日でもあるんだ 1102号室、この部屋は親父が俺と母さんを祝い宿泊した場所 親父は俺が幼少の時に時々しか家に帰ってこなくなって、それからは此処で祝うこともなかったから記憶にないけど母さんに残した手紙で知ったんだ 此処が母さんと俺と親父、家族みんなで泊まった唯一親父が幸せだった最初で最後の場所だったこと」
「そうだったの だからあの時このホテルはいわく有りのホテルだと仰っていたのね」
「親父も過ごした場所だから此処でまた君と会いたかった」
「柳木沢さんは雅和を、家族を愛していた でもその愛は雅和が言ったように家族とは少し違っていたかもしれないわね 人に甘えることを良しとしない柳木沢さんはいつなんどきも身を覆う重い鎧を外そうとしなかった そしていつからか自分の心さえ読めなくなった柳木沢さんは愛する術さえ忘れてしまったのね それでも最期は自分の愛し方で家族を愛し悔いなく旅立った そんな柳木沢さんの気持ちをわかってあげて」
「俺にはわらない親父を君はたくさん知っているんだな」
そのとき佐知の心に宿る何かが呼び覚まされた。
「人の気持ちはわかろうとしなければ何も見えないわ その人を思う気持ちが強ければ表情ひとつ仕草ひとつで異変に気づくものよ その言葉の一つ一つが本物か偽者かさえ分ってしまう でも雅和に俺のこと分かるって今聞かれたら言葉に詰まる自分が此処にいる」
「別れる前は俺のことはわかっていた」
「勿論、何でもわかったわ」
雅和は半ば強引に佐知を抱きしめ唇を重ねてきた。
「離して、お願いだから離して」
「だめだ離さない この手を放したら佐知きみは二度と会ってはくれない このまま俺から去っていくのがわかるから」
「そんなこと言わないで離して お願いだからこんな事しないで 悲しくなるからやめて」
「悪かったごめん」
体を離さない雅和の荒い息づかいだけが聞こえていた。その吐息は優しくそして時に強く刺すように首筋にあたった。不思議なことに佐知の体はみるみる熱く反応しはじめた。
「あなたの気持に嘘はないって信じるわ だからもう一度だけ・・」
「許してくれるんだね」
今またクリスマスの再来が訪れようとしていた。雅和に抱かれながらも柳木沢の姿が見え隠れしていた。体は狂おしいまでに応えてはいたが心の靄は晴れなかった。偽りのない雅和の気持ちは伝わっているのに以前とは何かが確実に違っていた。それでも欲情の扉をこじ開け身を焦がした。抱かれながら未だ消えない纏わりつく柳木沢の亡霊に佐知は苦しんでいた。雅和と愛し合っているさなかも柳木沢がまた姿を見せた。雅和そして今は亡き雅和の父・柳木沢ふたりの男に佐知の心は振り子のように揺れ動きざわめいていた。体は誤魔化せても心は偽れないと佐知は雅和から体を離そうと身をねじった。
「心はごまかせない」と溢した柳木沢の言葉が胸に響いていた。
目に飛び込んできたのは見覚えのあるツリー。懐かしい心痛むツリーがそこにあった。一年前のクリスマスが甦っていた。
「このツリーの前で俺は佐知を守ると誓った 今その気持ちに偽りはなく変わっていない」
「・・・・・」
「佐知、君は俺を裏切っていなかった。勝手な思い込みで君を責めたこと本当にすまないと思っている、許してほしい」
「・・・・・」
「親父がこの部屋に泊まったのは偶然なんかじゃなかった この部屋は親父にとって俺と同じ大切な思い出の場所だったんだ」
「大切な場所?」
「この部屋番号は俺と母さん二人の誕生日でもあるんだ 1102号室、この部屋は親父が俺と母さんを祝い宿泊した場所 親父は俺が幼少の時に時々しか家に帰ってこなくなって、それからは此処で祝うこともなかったから記憶にないけど母さんに残した手紙で知ったんだ 此処が母さんと俺と親父、家族みんなで泊まった唯一親父が幸せだった最初で最後の場所だったこと」
「そうだったの だからあの時このホテルはいわく有りのホテルだと仰っていたのね」
「親父も過ごした場所だから此処でまた君と会いたかった」
「柳木沢さんは雅和を、家族を愛していた でもその愛は雅和が言ったように家族とは少し違っていたかもしれないわね 人に甘えることを良しとしない柳木沢さんはいつなんどきも身を覆う重い鎧を外そうとしなかった そしていつからか自分の心さえ読めなくなった柳木沢さんは愛する術さえ忘れてしまったのね それでも最期は自分の愛し方で家族を愛し悔いなく旅立った そんな柳木沢さんの気持ちをわかってあげて」
「俺にはわらない親父を君はたくさん知っているんだな」
そのとき佐知の心に宿る何かが呼び覚まされた。
「人の気持ちはわかろうとしなければ何も見えないわ その人を思う気持ちが強ければ表情ひとつ仕草ひとつで異変に気づくものよ その言葉の一つ一つが本物か偽者かさえ分ってしまう でも雅和に俺のこと分かるって今聞かれたら言葉に詰まる自分が此処にいる」
「別れる前は俺のことはわかっていた」
「勿論、何でもわかったわ」
雅和は半ば強引に佐知を抱きしめ唇を重ねてきた。
「離して、お願いだから離して」
「だめだ離さない この手を放したら佐知きみは二度と会ってはくれない このまま俺から去っていくのがわかるから」
「そんなこと言わないで離して お願いだからこんな事しないで 悲しくなるからやめて」
「悪かったごめん」
体を離さない雅和の荒い息づかいだけが聞こえていた。その吐息は優しくそして時に強く刺すように首筋にあたった。不思議なことに佐知の体はみるみる熱く反応しはじめた。
「あなたの気持に嘘はないって信じるわ だからもう一度だけ・・」
「許してくれるんだね」
今またクリスマスの再来が訪れようとしていた。雅和に抱かれながらも柳木沢の姿が見え隠れしていた。体は狂おしいまでに応えてはいたが心の靄は晴れなかった。偽りのない雅和の気持ちは伝わっているのに以前とは何かが確実に違っていた。それでも欲情の扉をこじ開け身を焦がした。抱かれながら未だ消えない纏わりつく柳木沢の亡霊に佐知は苦しんでいた。雅和と愛し合っているさなかも柳木沢がまた姿を見せた。雅和そして今は亡き雅和の父・柳木沢ふたりの男に佐知の心は振り子のように揺れ動きざわめいていた。体は誤魔化せても心は偽れないと佐知は雅和から体を離そうと身をねじった。
「心はごまかせない」と溢した柳木沢の言葉が胸に響いていた。
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