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追憶
男同士2
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あれから二週間、仲間と会えない雅和はひとり悶々としていた。
そんな時、父(柳木沢)が雅和のマンションに顔を見せた。一室で父と子が顔を突き合わせ会話がないのは実に息が詰まるものだった。柳木沢は上京のたびにお世話になる割烹すし屋に雅和を連れ出した。割腹のいい客慣れした恵比須顔の女将に通され個室に入った。
「少し痩せたようだが食事はとっているのか」
「ちゃんと食べてるよ」
「母さんが電話しても繋がらないって心配してるぞ 病気や事故にあってたらとそればかりを気にしてな それで様子を見てきてくれと尻を叩かれて来たんだよ 母さんの命令だから今日は我慢して付き合ってくれ雅和」
雅和は迷惑そうに頷いた。
「考えてみると僕も君の年の頃はいろんな事があったな」
雅和にビールを注ぐ柳木沢は心なしか嬉しそうだった。
「まあ、どんなことが起きても救ってくれるのは誰でもない自分だけだ しかし時に導き手助けしてくれる苦労人なる人が現れたりもする」
「苦労人、なんだよそれ」
「苦労人か?救いの手助けをしてくれる人を総称して僕が名づけたんだ 悲しみ・苦しみ・痛みを体感し尊い涙をたくさん流した人、そんな人こそが真から人を支え救ってくれるんだよ」
「今どき、そんなししょうな人間が居るとは思えないよ もし居たとしても探し出すには骨が折れそうだな」
「いやいる 神は救いを見出すきっかけを必ず与えて下さるのだよ 雅和、少し長くなるが話を聞いてくれるか」
迷惑そうな雅和の顔は渋柿を喰らったようだった。
「僕は家を出てから体調が悪く病院に通うようになった 安定剤を飲みながら仕事はなんとかこなしていた 本来人間は強いものらしいが僕は違った 弱さゆえ意味もない虚勢を張り続け無闇に吠えては人を威圧して生きてきた 病気になったのはそのつけが廻ったせいなのだろう 自分の軌跡に自身安危になって眠れなくなっていたそんな時、一人の女性と出会った 君と同じ位のうら若き娘だった 僕はすぐに好感を持ったが彼女は好いてはくれなかった いや完全に嫌われていた まあ無理もなかろう 自分勝手で家庭を顧みない出鱈目な生活をしていた男だったからね だが彼女はそんな僕でも、一人にはしておけないと気遣ってくれた 彼女が繰り返し口にして言った言葉がある
「大好きな家族が一番の癒しで、大好きな家庭が幸せな安らぎの場だと」
彼女は理想的な家庭で育った幸せな娘なのだと僕は疑いもしなかったが後に生い立ちを知り愕然としたよ 彼女は両親を早くに亡くし弧児院で育ち今の家族に引き取られ養女になったそうだ 彼女はどんな思いをして生きてきたのか きっと誰より沢山の涙を流し小さい体で堪えてきたんだろうな だから彼女は人の心情をすばやく読んでとり弱者を気遣うすべを知っていたのだと納得したよ」
「その人がおやじの苦労人なのか」
「ああそうだ 彼女のおかげで自分と人生を取り戻せた」
「親父の言うその苦労人って・・皆井佐知って人じゃないのか」
「どうして彼女の名前を」
「彼女は・・彼女は恋人だった
別れたけど」
「別れた・・なぜ 彼女ほどの女性がまた現れるとは思えないが」
「ああ、俺もそう思うよ」
「なら、なぜ」
お前のせいだお前の・・そう喉から出そうになった言葉を雅和は飲み込んだ。
「俺の話はもういいよ 今日は親父の話を聞いてるんだからさ」
「君は僕と同じだな」
「親父と一緒にするなよ」
「お前は彼女をしっかり見てきたか 理解しようとしたか その結果の別れなら何も言うまい」
「俺は親父とは違う、違うんだ」
「ああ、その通りだ お前は母さんの一番の理解者で僕に代わりずっと母さんを守ってくれた 確かに君は僕とは違う すまない怒らせて悪かった」
雅和は頭を下げた父の手にお猪口を握らせ酒をついだ。柳木沢は注がれた酒をゴクリと喉を鳴らし飲み乾した。父と息子男二人が一人の女に思いを巡らす夜となった。
そんな時、父(柳木沢)が雅和のマンションに顔を見せた。一室で父と子が顔を突き合わせ会話がないのは実に息が詰まるものだった。柳木沢は上京のたびにお世話になる割烹すし屋に雅和を連れ出した。割腹のいい客慣れした恵比須顔の女将に通され個室に入った。
「少し痩せたようだが食事はとっているのか」
「ちゃんと食べてるよ」
「母さんが電話しても繋がらないって心配してるぞ 病気や事故にあってたらとそればかりを気にしてな それで様子を見てきてくれと尻を叩かれて来たんだよ 母さんの命令だから今日は我慢して付き合ってくれ雅和」
雅和は迷惑そうに頷いた。
「考えてみると僕も君の年の頃はいろんな事があったな」
雅和にビールを注ぐ柳木沢は心なしか嬉しそうだった。
「まあ、どんなことが起きても救ってくれるのは誰でもない自分だけだ しかし時に導き手助けしてくれる苦労人なる人が現れたりもする」
「苦労人、なんだよそれ」
「苦労人か?救いの手助けをしてくれる人を総称して僕が名づけたんだ 悲しみ・苦しみ・痛みを体感し尊い涙をたくさん流した人、そんな人こそが真から人を支え救ってくれるんだよ」
「今どき、そんなししょうな人間が居るとは思えないよ もし居たとしても探し出すには骨が折れそうだな」
「いやいる 神は救いを見出すきっかけを必ず与えて下さるのだよ 雅和、少し長くなるが話を聞いてくれるか」
迷惑そうな雅和の顔は渋柿を喰らったようだった。
「僕は家を出てから体調が悪く病院に通うようになった 安定剤を飲みながら仕事はなんとかこなしていた 本来人間は強いものらしいが僕は違った 弱さゆえ意味もない虚勢を張り続け無闇に吠えては人を威圧して生きてきた 病気になったのはそのつけが廻ったせいなのだろう 自分の軌跡に自身安危になって眠れなくなっていたそんな時、一人の女性と出会った 君と同じ位のうら若き娘だった 僕はすぐに好感を持ったが彼女は好いてはくれなかった いや完全に嫌われていた まあ無理もなかろう 自分勝手で家庭を顧みない出鱈目な生活をしていた男だったからね だが彼女はそんな僕でも、一人にはしておけないと気遣ってくれた 彼女が繰り返し口にして言った言葉がある
「大好きな家族が一番の癒しで、大好きな家庭が幸せな安らぎの場だと」
彼女は理想的な家庭で育った幸せな娘なのだと僕は疑いもしなかったが後に生い立ちを知り愕然としたよ 彼女は両親を早くに亡くし弧児院で育ち今の家族に引き取られ養女になったそうだ 彼女はどんな思いをして生きてきたのか きっと誰より沢山の涙を流し小さい体で堪えてきたんだろうな だから彼女は人の心情をすばやく読んでとり弱者を気遣うすべを知っていたのだと納得したよ」
「その人がおやじの苦労人なのか」
「ああそうだ 彼女のおかげで自分と人生を取り戻せた」
「親父の言うその苦労人って・・皆井佐知って人じゃないのか」
「どうして彼女の名前を」
「彼女は・・彼女は恋人だった
別れたけど」
「別れた・・なぜ 彼女ほどの女性がまた現れるとは思えないが」
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お前のせいだお前の・・そう喉から出そうになった言葉を雅和は飲み込んだ。
「俺の話はもういいよ 今日は親父の話を聞いてるんだからさ」
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「ああ、その通りだ お前は母さんの一番の理解者で僕に代わりずっと母さんを守ってくれた 確かに君は僕とは違う すまない怒らせて悪かった」
雅和は頭を下げた父の手にお猪口を握らせ酒をついだ。柳木沢は注がれた酒をゴクリと喉を鳴らし飲み乾した。父と息子男二人が一人の女に思いを巡らす夜となった。
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