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追憶

男女の機微4

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節分寒波も過ぎて少しずつ寒さも緩み始めていた。朝晩はまだまだ寒さが厳しかったが日差しに春の到来を感じながら佐知は雅和の連絡を待ち続けていた。その日は山のように積まれたカルテの整理に追われていた。


「すみませんがいま話せますか」


「少しお待ちください」


頭を上げると受付に立っていたのは雅和だった。


「いつ戻ったの」


「さっき着いたばかり 佐知の顔が見たくて駅から真っ直ぐここにきた」


「今日は残業なの 遅くなるけど」


「無理しないでいいよ 佐知の顔を見たかっただけだから 改めて時間つくってゆっくり会おう また電話するよ」


「分かった 電話待ってるね」


「じゃあな」


佐知はそれきりなんの音沙汰もない雅和のことばかり考えていた。おでこに出来た小さなニキビとにらめっこしていると電話が鳴った。待望の雅和からだった。 


「すべて解決したよ 詳しい事は会ったその時に話すから」


お気に入りの空色のシャツワンピースで約束の場所へ急いでいた。


「さち~」


道を挟んだ歩道に大きく手を振る雅和がいた。


だれかに似ている 確かこんな風に歩いてくる人どこかで見たような・・


佐知はそれが誰なのかその正体をあぶり出す事が出来なかった。

行きかう車を避けながら雅和が駆けてきた。


「この前は仕事中ごめん」


「いいの、会いたかったからうれしかったわ」


「おれもスゴく会いたかった」


目と目を交わすだけで気持ちは通じ合えた。会話など必要なかった。

二人はホテルの一室で灼熱の肌を重ね合わせていた。佐知は雅和を追ってきたという元カノのことがまだ気にかかっていた。


この大きな胸の中に元カノも・・


過去の女たちの影を蹴散らすように雅和の体を激しく求め続けた。久しぶりの逢瀬に二人は触れ合う肌を離そうとしなかった。


「雅和にお願いがあるんだけど」


「俺に出来ることなら」


「ならOKね 昔、付き合った人たちのこと聞かせて」


「過去のことはお互い知らないほうがいいよ」


「知りたいの 聞くのは今日が最後、だから教えて」


「気が乗らないけどそこまで言うなら話すよ 俺が付き合ってきた女は佐知とはまったくタイプが違う」


「違うってどんなふうに」


「どんなふうって聞かれても」


「今まで付き合った人の外見とかなら簡単でしょう」


「肉感的 そそられる色気がある 欲求を満たしてくれる年上 男なれして後腐れない うーん、こんな感じかな 納得した」


「そんなあなたと付き合った人たちみんな可哀想だわ 出会う前の雅和はやっぱり私が嫌いな男だったのね」


「ほらね こうなるから聞かない方がいいって言ったんだ 昔の俺は愛ある付き合いなんてしてこなかった最低男だよ」


「違う最低なのは私よね 意地悪なこと聞いてごめんなさい もう昔の事は聞かないわ」


「その話は忘れて 俺の話し聞きたくない」


「うん 聞きたい」


「しばらく会えなかったのは憔悴した母の事が心配で目が離せなかったからなんだ」


「肉親だもの心配よね」


「病気じゃないから大丈夫なんだけど色々あって心が折れてしまったんだと思う」


「だったらお母さんの側にいてあげないと 急いで帰って」


「いいんだ 原因を排除して解決したから」


「よくわからないけど上手くいったってことなの」


「すべての原因は親父なんだ」 


「排除って、まさかお父さんを排除した、そんな事してないわよね」


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