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追憶
男女の機微2
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「怒らせたのなら許して下さい でもはっきり言わせてもらいます 柳木沢さんの今日の物言いは好きになれません 相手を見下すようなその言い方が家族関係を悪くしているのではないですか 一度でいいから自分から家族に歩み寄ってみてはいかがですか 家族の本当の気持ち、柳木沢さんに対する思いがわかるかもしれませんよ」
急ぎ足のウエーターがやって来て1枚のメモを柳木沢に差し出した。
「電話が入ったようだ 話の途中で悪いがちょっと失礼するよ」
カップの珈琲は手付かずのままですっかり冷めていた。
「申し訳ない 仕事が入ったので失礼するが君はまだ此処に残りなさい」
「私も一緒に失礼します」
「いま君のため頼んだ物が来るからそれを飲んでからお帰りなさい」
柳木沢はコートを手にすると険しい顔で去っていった。
柳木沢さんを怒らせてしまったわ
手で頭を覆い佐知は自己嫌悪に陥っていた。昔の柳木沢、今日の柳木沢どちらも佐知の好かない男だった。
テーブルにケーキとレモンティーが運ばれてきた。柳木沢は佐知のためにシフォンケーキを頼んでいた。口いっぱいにそれを含むと自然と顔が綻んできた。好かない柳木沢のことなどすっかり忘れ笑顔でケーキを頬張っていた。
好かない柳木沢をも受け入れられるようになった佐知はそんな自分に驚きを隠せなかった。
其のころ雅和は父と母の関係に心を痛めていた。
「いったい何が気に入らないんだ 君に責められる様なにかしたのか 頭を下げて一生償えとでも言いたいのか」
「責めるなんて私そんなつもりは決してありません あなたは昔の話になるといつも不機嫌な顔をして神経を尖らせ声を荒げるのね」
「考えても見ろ 今更昔の話などして何になる どうしろと言うんだ 別れたいのならはっきり言ったらいい」
「別れるなんて考えたことないわ 私は悲しみも苦しみも今日まで一人で耐えてきました その事をあなたにわかって欲しかった 共有して貰いたかったの 幸せも涙も分かち合える夫婦になりたいとずっと願ってきたのよ」
「これまで血を吐く思いで仕事をして君たちを養ってきた そのお蔭で君たちの今日がある 十分な物を与え続けられたのも僕の仕事のお蔭だ なのにそれ以上のなに要求するつもりなんだ」
「私は贅沢を望んでいるんじゃないの 誤解しないで 私があなたを必要とする時あなたはいつも傍に居てはくれませんでした 長い年月を通してあなたが私と居てくれたのは指で数える程でしたよね あなたの心がわからない私は いつもあなたが遠い人にみえて悲しいの」
「なにをバカなことを云っている 君は自分が言っていることがおかしいとは思わないのか 長いこと僕を見てきた君が今更悲しいなどと」
雅和の両親は最近言い争いが絶えず家庭内に不穏な空気が流れ込んでいた。
急ぎ足のウエーターがやって来て1枚のメモを柳木沢に差し出した。
「電話が入ったようだ 話の途中で悪いがちょっと失礼するよ」
カップの珈琲は手付かずのままですっかり冷めていた。
「申し訳ない 仕事が入ったので失礼するが君はまだ此処に残りなさい」
「私も一緒に失礼します」
「いま君のため頼んだ物が来るからそれを飲んでからお帰りなさい」
柳木沢はコートを手にすると険しい顔で去っていった。
柳木沢さんを怒らせてしまったわ
手で頭を覆い佐知は自己嫌悪に陥っていた。昔の柳木沢、今日の柳木沢どちらも佐知の好かない男だった。
テーブルにケーキとレモンティーが運ばれてきた。柳木沢は佐知のためにシフォンケーキを頼んでいた。口いっぱいにそれを含むと自然と顔が綻んできた。好かない柳木沢のことなどすっかり忘れ笑顔でケーキを頬張っていた。
好かない柳木沢をも受け入れられるようになった佐知はそんな自分に驚きを隠せなかった。
其のころ雅和は父と母の関係に心を痛めていた。
「いったい何が気に入らないんだ 君に責められる様なにかしたのか 頭を下げて一生償えとでも言いたいのか」
「責めるなんて私そんなつもりは決してありません あなたは昔の話になるといつも不機嫌な顔をして神経を尖らせ声を荒げるのね」
「考えても見ろ 今更昔の話などして何になる どうしろと言うんだ 別れたいのならはっきり言ったらいい」
「別れるなんて考えたことないわ 私は悲しみも苦しみも今日まで一人で耐えてきました その事をあなたにわかって欲しかった 共有して貰いたかったの 幸せも涙も分かち合える夫婦になりたいとずっと願ってきたのよ」
「これまで血を吐く思いで仕事をして君たちを養ってきた そのお蔭で君たちの今日がある 十分な物を与え続けられたのも僕の仕事のお蔭だ なのにそれ以上のなに要求するつもりなんだ」
「私は贅沢を望んでいるんじゃないの 誤解しないで 私があなたを必要とする時あなたはいつも傍に居てはくれませんでした 長い年月を通してあなたが私と居てくれたのは指で数える程でしたよね あなたの心がわからない私は いつもあなたが遠い人にみえて悲しいの」
「なにをバカなことを云っている 君は自分が言っていることがおかしいとは思わないのか 長いこと僕を見てきた君が今更悲しいなどと」
雅和の両親は最近言い争いが絶えず家庭内に不穏な空気が流れ込んでいた。
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