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追憶

計り知れない心3

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その後も佐知と柳木沢の交流は続いていた。柳木沢はスケジュールをやり繰りして会ってくれた。しかし佐知には未だ柳木沢という男の本質が見えてこなかった。ただあの日以来、佐知に女を求めることはなくなっていた。柳木沢は遣る瀬無い心情をしばし口にしたがいつも佐知に一蹴されていた。柳木沢にはそれも癒しで活力の源になっていた。


「君とここで会うのは今日が最後だ 僕はこのホテルを出る」


「住まいを見つけたのですか」


「いいや戻ろうかと」


「戻るって御家族のもとに」


「ああそうだ」


「本当ですか 良かったですね よかったじゃないですか~」


「こんなに喜んでもらえるとは 君のこんなハシャギようは初めてだな」


言い終えて柳木沢は背を向けた。


「これから柳木沢さんは一人じゃないんですよね 家族と一緒ならいつも溢している柳木沢さんの辛さも軽くなると思うと嬉しいです」


振り向きざま柳木沢が苦言した。


「人は誰かといれば寂しくはないだろう しかし誰かといても一人なら・・寂しいなら・・意味がない」


雅和と出会った夏の日が甦った。大人数の中あの時佐知は一人ぼっちだった。


「君は家族といて楽しいか」


「楽しいとか特別考えたことありません だって家族と一緒にいるのは当たり前だし、わたし父と母がいる家が大好きなんです」


「君はそれだけでもう十分幸せものだ そんな家庭が・・家族がいる君がうらやましい限りだ 僕も子供にそんな風に言われてみたいが・・一生ないだろうな」


「柳木沢さん大丈夫ですか 家族との生活が始まるというのにちっとも嬉しそうじゃない・・」


「やはり君にもそう見えるか 心は正直だから誤魔化せんな」


「・・・・」 


人の心を計り知るのは難しく哲学のようだった。

好かない男・柳木沢の事が気になって仕方ないのはなぜ
どこか寂しげな中年男・柳木沢を放って置けないのはなぜ

心ざわめく佐知は柳木沢との出会いが想像を超える巨大な力に導かれいるような気がしてならなかった。

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