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追憶

計り知れない心1

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彼が東京に帰ると戸惑う感情と熱い体は元に戻っていた。あれから柳木沢は病院には顔を見せなくなっていた。聞くところによれば仕事と身の回りの身辺整理とかで多忙なのだという。


「体は大丈夫なのかしら」


なぜだか好かない柳木沢のことが気になっていた。


「今日は土曜日だわ、午後の予定もないし会いに行ってみようかな」


佐知の好物のシフォンケーキを今日は柳木沢のために買った。少し高台に建つレンガ造りのホテルに柳木沢は宿泊していた。ホテルの装飾はレトロな懐かしさを醸していた。受付に立つ人は手一杯でロビーで待つことにした。

肩越しに人の気配を感じ振り返ると白髪交じりの男性が笑顔を見せ頭を下げた。


「いつもは私の後姿ばかりでわからないでしょうね」


わずかな記憶の中に帽子を被った姿が現れた。


「あ、柳木沢さんの運転手さんですね」


運転手の畏まった顔が少し緩んだ。


「柳木沢様は今日は御戻りになりませんよ」


柳木沢さんは何処に・・その言葉を吐き出せず飲み込んでいた。


「あのぉ 宜しかったらこれをどうぞ」


土産のケーキを差し出していた。


「受け取れません 柳木沢様へのお品なのでしょう」


「いいんです 受け取ってください 車に乗せていただいたお礼です ですから遠慮なさらず受け取って下さい」


「ではお言葉に甘え頂戴いたします」


その場を離れた運転手だったがどうしたことか神妙な顔で戻ってきた。


「あのお聞きしたいことがあるのですがいま宜しいでしょうか」


緊張のせいか手にしたケーキの箱が揺れていた。


「大変失礼かと思いますが最近柳木沢様との間に何かあったのでしたらお聞かせいただけませんか」


佐知は質問の真意がわからず言葉に詰まった。


「柳木沢さんになにか・・」


運転手は柳木沢の近況を語りはじめた。


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