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追憶

欲しいのは何1

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真砂子からの携帯が鳴っていた。それは雅和の帰省を伝えるメールだった。

/雅和9日そっちに帰るらしいよ電話番号教えるね/

彼の携帯番号を佐知はこの日はじめて知った。舞い上がって番号を何度も押し間違えていた。


「・・もしもし・・」


「だれ」


「皆井佐知です」


「君か、真砂子から電話番号教えておいたってさっき連絡がきたよ」


嬉しさを隠せない声はビブラートのソプラノになっていた。


「休みでもないのに帰ってくるなんて何かあったの」


「うんちょっとした家の野暮用でね」


「会えると嬉しいんけど、会える?」


「もちろん、俺も君に会いたい」


電話を切った佐知は部屋のカレンダーに赤いハート印をつけた。

ある日のロッカー室で佐知が珍しく口紅をさす姿を同僚たちは見逃さなかった。


「さっちんにも彼氏ができたみたいね デートでしょ」


「そうなの さっちゃんに超されてしまったか」 


「たっぷり楽しんできなさいね」


「もうみんなして そんなんじゃありませんよ、お疲れ様~」


駅に帆布のショルダーを下げた彼が人待ち顔で立っていた。


「ごめんなさい。待った」


「君に会えるなら朝日が昇るまで待つ覚悟だったから平気さ」


「そんなセリフ咄嗟に言えるのは遊び人だったあなただけよ 言われた私のほうが照れてしまうわ でも嬉しいわありがとう 疲れたでしょう何処かお店に入りましょう」


「いや今日はこのまま俺の家に直行」


「そんな突然すぎるわ お土産も用意してないのに」


「誰もいないからそんな心配いらないよ」 


「・・・・」


「大丈夫君を襲ったりしないよ、俺を信じて、さぁ行こう」


手を引かれ公園前のバス停でバスを待った。バスに揺られること15分、彼がブザーを押す仕草をしてみせた。


「次降りるから」


指折り数えたバス停は六つ目だった。歩き出すと目の前に長い坂道があらわれた。


「もうすぐだから頑張って」


ゼイゼイして坂を上りきった先には真新しい家並みが見えた。その一角にひと際目立つタイル張りの門構えの家があった。荘厳な洋館の家、それが彼の家だった。

彼はチノパンに手を入れゴソゴソと鍵を探していた。


「自分で鍵あけて家に入ることあんまりないから あった~待たせてごめんね、さぁ入って」


促されるまま入った先は20畳大のリビング。大小のオレンジ色かかった黄色のソフォーは向日葵のようだった。ソファーに座ると窓際に整然と並んだ写真立てが目にとまった。幼少期から現在までの彼が額の中で飾らぬ笑顔をみせ微笑んでいた。着替えた彼が部屋に入ってきた。佐知が指差した窓辺に置かれた写真に彼は罰が悪そうに苦笑いを浮かべた。


「写真みたんだ、恥かしいな、それ全部母さんが撮ったんだ」


「ステキな笑顔の写真ばかり、愛情いっぱい貰って育ったのね」


佐知は子を思う母の愛を垣間見た思いがした。

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