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追憶

好かないジェントルマン4

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「ならばはっきり言おう 僕は受付にいた君に心を奪われてしまったようだ」


「そのお年になってもまだご自分の子どものような若い女性とお付き合いしたいと」


「若い女性ではなく君だ。君を極上の女にしてあげたい」


「私には大切な人がいます」


「勿論そうだろう、それで質問だが君はその男に充たされているのか」


「・・・」


「どんなふうにか聞かせてもらいたいものだな」


いつまでもやまぬ質問に佐知は語尾を荒げた。


「好きな人との蜜ごとを聞く権利なんて誰にもないはずです 私を困らせて楽しんでいるのですか 柳木沢さんを好きになるなんて絶対にありません
無理です」


言葉が途切れ空気音だけがキーンと耳の奥に入りこんできた。さっきまでと違う静寂さに鳥肌がたった。この部屋をすぐさま抜け出したかった。

佐知が帰ろうとバッグを持ったその時だった。ソファーの柳木沢は胸に手をやり苦しい息づかいを見せた。


「柳木沢さん大丈夫ですか フロントに電話しますね 院長先生を呼んでもらいますね。私がわかりますか、柳木沢さん」


「大丈夫だ 上着のポケットに・・薬が・・」


「これですか これででいいのですね」


口に薬を押し込み口移しで少しずつ何度も水を含ませた。喉仏を大きく動かし柳木沢は苦しげな顔で水を飲み込んだ。数分後、柳木沢の顔に血色が戻り容態は好転した。


「申し訳なかった 君がいてくれてよかった 本当にありがとう 今日は朝からどうしたことか無性に人恋しくてね 強引に君を連れて来たのはこのせいだったのかもしれないな」


「よかったぁ、安心しました」


「君の唇はいい、実にいい」


「あれは医療行為です・・ですから他の人に変な事は言わないで下さいね。約束ですよ」


「冗談、冗談だよ しかし君はダイヤ石のように本当にお堅いんだね」


「ダイヤのように光っているの間違いではないですか」 


「今の君はダイヤモンドにおよばない海岸の流れ石に過ぎない だから僕が極上にしてあげようと言っている」


柳木沢はいつもの好かない男に戻っていたが少しだけ印象が違って見えた。


「私はこれで、今日はご馳走様でした。美味しい昼食ありがとうございました」


「こちらこそありがとう。これは僕からのお礼だ」


柳木沢の唇が綿菓子のように佐知の唇を横切っていった。何事もなかったように身を離し柳木沢は手を差しだした。


「またいつでも御馳走しますよ 君は命の恩人だからね 今後君を困らせるような事は慎もう 今日はありがとう」


帰り道佐知はホテルでの出来事を思い出していた。今日柳木沢は危険な匂いをいっぱい放っていた。柳木沢は大人の男・好かない危険な男なのに佐知はなぜだか嫌いにはなれなかった。

柳木沢とのこの出会いが佐知の人生に多大な意味を持つことになろうとは佐知は勿論、柳木沢さえ知るよしもなかった。


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