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追憶

好かないジェントルマン3

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「顔に似合わず君は恐い女性だ 澄ました顔でずけずけと物を言い人を坩堝に陥れようとする」


「そんなつもりは...すみません
本当にごめんなさい」


頭を下げた体は震えだしていた。とそのときガラ・カラッ車輪の音が部屋の前で止まった。レストランの厨房の匂いがしてワゴンに乗せられた料理が運ばれてきた。

テーブルに目だけでお腹一杯になりそうなランチの数々が並べられた。


「食事にしよう さぁこっちに来てここにお掛けなさい。お腹が空くと人はとげとげしくなる 話の続きは食事の後にしよう」


話の続き又するの?

一刻も早くこの場を離れたかったが彩り鮮やかな料理を目にして去りがたくなっていた。さすがの柳木沢もお腹が空いていたのだろう。真っ先に海老・イカ・魚介類が盛り沢山のペスカトーレに手を伸ばし豪快に口に入れた。佐知もつられてムール貝をパクリ。


「美味しい~」

 
「そうか それなら結構だ」


栗鼠の様に頬張る佐知の顔を柳木沢は嬉しそうに眺めていた。二人は会話もなくひたすら食べることに集中していた。珈琲の香りが部屋中を充たし柳木沢の香りが追いやられ穏やかな気分になった。


「君は僕を嫌っているようだね」


突然の的をついた問いかけに佐知は返す言葉を探していた。


「好いていないのは確かですが嫌ってはいませんよ」


眉尻を下げ安堵した柳木沢の様子が伺えた。


「僕を好かない訳を聞かせてもらえないか」


「一番はその香水の匂い・・好きになれません。私の好みではありません」


「じゃ君はどんな香りが好きなのかな」


「好きな人の香りが好きな匂いです」


柳木沢の口元が上弦三日月から下弦三日月の形に変わった。  


「それは難しいな、買って来ようにも探しようがない」


「柳木沢さんはどうしてこんなに年が離れた私に興味を持たれるのですか」


「・・・・」


「答えられないのは私じゃなく誰でもいいからなのではないですか」


柳木沢は大きく咳払いをしてみせた。


「いや君でなければならない理由はある」


「その理由は何なのですか」


「僕があるといっているのだからそれでいい 君の問いに答える気は毛頭ない」


「そんなおとなげない回答は柳木沢さんらしくありません」


「僕は君の今後のために男を曝け出し見せてあげているのだよ」


病院で見せる毒々しい柳木沢が目の前に立ちはだかっていた。


「柳木沢さんに誰もがするように屈服してひざまずけとでもいいたいのですか 私は気持ちに嘘はつけません
だから他の女の人みたいに柳木沢さんの言いなりにはならないわ」


「誤解しないで欲しい そうじゃない オブラートに包むような姑息な真似はしたくないだけだ」


「だったら尚更です 誤解なら分かるように話して下さい こうして会うのも今日が最初で最後でしょうから」

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