2 / 316
追憶
出会い1
しおりを挟む
思えばあの日は茹だるようなそれは暑い夏だった。朝からの大量の蝉の声に汗ばむわきの下を見ながらうんざりしていた。町は夏祭りの出店やお囃子・太鼓の音に誘われた人で溢れ返っていた。夏祭りは再会を喜ぶ夏の風物詩だった。カップルには待ち焦がれた夏の日でもあった。この日ばかりは相手にしてくれる人を探し出すのは至難の業だった。この時の佐知には彼と呼べる相手はいなかった。お誘いの声がかかり何年かぶりで夏祭りへ足を運んでいた。約束の店に入ると1画だけが不思議アートのように浮き立っていた。1人2人・・5人・・もっといる
「佐知遅いよぉ~ こっち、こっち、早くおいでよ」
小中高と一緒だった真砂子の声がした。合唱部のソロで数々の賞に導いた声は健在で辺りの人を振り向かせた。
しまった 引き返す前に見つかってしまったわ
見知らぬ人の前は大の苦手、こんな時の自己紹介はなおのこと。学生時代の赤面症と震え声に笑われた光景が浮かんでいた。この思い出は胸の引き出しに封印されたままだった。ここであの引き出しを開くのは絶対いや、来なきゃよかった・・キャンディをころがす口先が震えていた。
「みんなに紹介するから早く来て早く~」
腕を捕まれ奥に引き摺られていった。
「さっき話した佐知のご到着よ。みなさん宜しくね」
「はじめまして、遅れてすみません」
「佐知、ここに居るのはみんな彼の友人よ」
マネキンに似た彼はいつもの含み笑いを見せていた。真砂子の彼この男だけはどうしても苦手だった。この男を知るのはむずかしい数式を解くようなものだった。資産家の御曹司で頭脳明晰・色男、完璧すぎて手も足も出ない。いつも季節はずれの雪だるまが脳裏をよぎった。ミステリーの謎解きのようなサスペンス男だった。その友人たちと聞けば益々帰りたい気持ちに襲われた。気がつけば男たちの彼女らも合流し店内は手狭になっていた。彼の膝に乗る真砂子がいつもに増して妖艶に見えて佐知は思わず耳を熱くした。
「そろそろ出ようか」
彼のひと声で一行は次々席を離れていった。
「佐知もまだ大丈夫でしょ、一緒に行こう」
口は重く閉じ言葉ひとつ出てこなかった。
「さぁきまりね、行こう行こう」
囚われの身の様につかまれた体は上半身だけが前に倒れた。根が生えたような両脚が帰りたい気持を映し出していた。
「佐知遅いよぉ~ こっち、こっち、早くおいでよ」
小中高と一緒だった真砂子の声がした。合唱部のソロで数々の賞に導いた声は健在で辺りの人を振り向かせた。
しまった 引き返す前に見つかってしまったわ
見知らぬ人の前は大の苦手、こんな時の自己紹介はなおのこと。学生時代の赤面症と震え声に笑われた光景が浮かんでいた。この思い出は胸の引き出しに封印されたままだった。ここであの引き出しを開くのは絶対いや、来なきゃよかった・・キャンディをころがす口先が震えていた。
「みんなに紹介するから早く来て早く~」
腕を捕まれ奥に引き摺られていった。
「さっき話した佐知のご到着よ。みなさん宜しくね」
「はじめまして、遅れてすみません」
「佐知、ここに居るのはみんな彼の友人よ」
マネキンに似た彼はいつもの含み笑いを見せていた。真砂子の彼この男だけはどうしても苦手だった。この男を知るのはむずかしい数式を解くようなものだった。資産家の御曹司で頭脳明晰・色男、完璧すぎて手も足も出ない。いつも季節はずれの雪だるまが脳裏をよぎった。ミステリーの謎解きのようなサスペンス男だった。その友人たちと聞けば益々帰りたい気持ちに襲われた。気がつけば男たちの彼女らも合流し店内は手狭になっていた。彼の膝に乗る真砂子がいつもに増して妖艶に見えて佐知は思わず耳を熱くした。
「そろそろ出ようか」
彼のひと声で一行は次々席を離れていった。
「佐知もまだ大丈夫でしょ、一緒に行こう」
口は重く閉じ言葉ひとつ出てこなかった。
「さぁきまりね、行こう行こう」
囚われの身の様につかまれた体は上半身だけが前に倒れた。根が生えたような両脚が帰りたい気持を映し出していた。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる