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探索班 3
しおりを挟む「それで、呪いは解けそう?」
私はハリセン叩きの地獄から解放され、呪いの木の周りを数分飛び回っているルネに尋ねる。
私も最初こそ一緒に見ていたが、呪い関連はさっぱりですぐに諦めた。
こういうのは専門に任せるべきだと。
「無理だ」
ルネは首を横に振る。
「は?なんで?」
私はまさかの言葉に驚く。
ーー悪魔の王のルネに解けない呪いなんてあるの?
ーー存在自体が厄災なあんたでも呪いには勝てないの?
そう言葉に出さなかったが、顔にはしっかり出ていたため、ルネには私が何を思っているのか伝わった。
「解けないわけじゃない!俺様が呪いなんか恐れるわけないであろう!」
呪いより弱いと思われたことが気に食わなかったのか、大声でギャンギャン騒ぐ。
うるせー、と思いながら「なら、なんで無理なの?」ともう一度尋ねる。
「この呪いはカルアという呪いだ」
「カルア?なにそれ?」
この世界の住人でないため聞いてもわからない。
住人でも普通の人間にはわからないだろう。
呪いとは無念の世界で生きているのだから。
「簡単に言うと指定された場所を焼き払う呪いだ」
「え?なにそれ?やばくない?解除できるの?」
「できる。まだ完全に発動はされていないからな」
「ん?何で?」
それを聞いて私は首を傾げる。
呪いの紋章は刻まれているのに完全に発動されていないというのが理解できない。
「さぁな。それはわからん」
発動者がわざとそうしているのか、トラブルが起きたのか、こればっかりは当人にしかわからない。
ルネは首を数回横に振りお手上げだ、と訴える。
「そう。なら、それはもういいわ。それより呪いを解けない理由を言って」
どっちかと言えば呪いが完全に発動していない理由よりも、呪いを解けない理由の方が気になる。
その理由次第では計画を変えなければならなくなるので、早く言えと圧をかける。
「このカルアという呪いは5つの呪いの紋章をどこかに刻み発動させるもの。つまり、呪いを解くには同時に破壊する必要があるんだ。1つだけ見つけて破壊しても意味がない」
だから俺様は弱くない、破壊できる、とそう言って小さな羽をバタバタさせながら近づこうとしてくるルネの首根っこを掴んで、顔に近づけないようにする。
「なるほどね。そういうことね……これは、思ったより面倒ね。よっぽど厄介な人間が向こうにいるわね」
フリージア侯爵家を敵に回すようなことをしたのが、単独ではなく複数だと確信している私は、相手に厄介な人間がいるとわかり、簡単にこの件は解決できないだろうと悟る。
「いたらダメなのか?」
散々、ムカつく相手、嫌いな相手、気分で殺してきたルネにはなぜ駄目なのかわからない。
封印されるまでの間、ルネは基本地獄で死んだ人間を罰していたが、たまに魔族や魔物を殺したり、反乱を起こした時には同族も沢山殺したので弱いものが死ぬのは当然。
だから、殺せば簡単に片付くのだから、いようがいまいが関係ないと思っている。
'うわー。こいつ絶対ろくでもないこと考えてるわ'
首をコテンして見上げるルネに私はドン引きする。
「当然でしょう……」
なんと言えばルネを納得させるか考えるも、悪魔の王の思考回路など人間に理解できるはずもなく、何も浮かばない。
どうしたものかと頭を悩ませていたが、自分の意志とは勝手に口が動き、無意識にこう言っていた。
「美味いもんが食えなくなる」と。
厄介な人間を相手にすると、結構な時間を使うため、新たな料理を作る暇がない。
そんな意味をこめて言ったが、それを聞いたルネは全身の毛がブワッとなり、カッと目を見開いて「それは一大事だ!」と叫び、何がなんでも呪いを解き、厄介な人間を殺さなければと思う。
そんなルネの考えていることがすぐにわかった私は「絶対に殺すなよ。殺したら、さらに面倒なことになって美味しいもん食べれる日が遠くなるからな。生捕にするんだぞ。わかってるな」と言われ、ルネは不満げな顔をしながら「ああ、わかった」と返事をする。
'殺した方が楽なのに、人間はなんて面倒な生き物なんだ。だが、美味しいものが食べられなくなるのは嫌だから、仕方ないか。今回は人間のルールに従ってやるか'と渋々納得する。
私はこれだけ言えば殺しはしないだろうと思い、他の呪いをルネを連れて探しに行く。
ルネ曰く、5つの呪いを繋ぎ、作られる形に意味があり、そして1ミリでもずれた意味ないので絶対に動かない物を見つけるべきとのことだ。
ルネは意気揚々に話すが、私が「この広い領地から残りの4つをどうやって探すのよ」と聞くと視線を逸らされた。
森はフリージア領の中でも最も怪しかったため入ったが、他はどこも同じくらい怪しいのでどこから探せばいいのかわからない。
私はようやくこの探索班が1番大変で面倒くさい作業だと気づいた。
ルネがいるから楽勝だと思ってたのが……
呪いを見つけるのは無理だと言われ、当初の計画から大幅に狂った。
本当なら今頃呪いを破壊して、侯爵に報告して恩を売っていたはずなのに。
'2人でこの広大な範囲から残り4つの呪いを見つけろって?ふざけてんの?まじ、やってらんねーわ。クソボケナス!'
私は上からフリージア領を見下ろし、その広さに頭が痛くなる。
どう頑張っても1日で探せる範囲ではない。
1ヶ月以上かかる範囲だ。
無理だ。そんな時間はない。
そもそも1ヶ月どころか1週間もここにいたくない。
風呂も美味しい料理もない土地で暮らすなど無理だ。
この世界にきて貴族として何もせず過ごすつもりが、まずい食事と風呂なし生活に3日でギブアップし、自分で料理を始め、領地改革をして、なんとか今耐えながら生活できている状態なのに、この世界にきたばかりのスカーレット領よりも、呪われたせいで荒れたフリージア領に長く滞在するなど絶対に無理だ。
1日どころか1秒でも早く帰りたいと思っているのに!
思ってはいるが、頑張れば助けられる人を見殺しにできるほど非常な人間ではないため、安定するまで滞在はするが、流石に1ヶ月以上は無理だと体が訴える。
早くて3日後、遅くて1週間後にはスカーレット家の使用人、エルフ、ダークエルフたちから数名派遣されるが、彼らには別のことをしてもらうので呪い探しを手伝ってもらうことはできない。
そうなると残っている方法は一つだけしかない。
「ルネ」
「おー」
ルネは私から無茶振りを命じられるのではないかとビクビクしながら返事をする。
「アスターとシオンのところに行くわよ」
「なぜだ?」
なぜ2人のところに行くのか理解できないルネは首を傾げる。
「決まってるでしょう。あの2人にも呪い探しを手伝わせるのよ」
私はニヤリと笑う。
私の笑みを見たルネは「相変わらず、凶悪な笑みだな」と心の中で呟きながら「魔物退治はどうするんだ?」と尋ねる。
「……」
私はこいつ馬鹿か、という目をルネに向ける。
「……」
ルネは私の目を見て、こいつ絶対失礼なことを考えてやがる、とわかるもなぜそんな風に思われたのかはわからなかった。
「ルネ。スカーレット領で1番強いのは誰?」
「そんなの決まってんだろ!俺様だ!」
'様つけんな。阿保。私までアホに見られるだろ'
何度注意してもたまに「様」をつけるルネに怒りが湧くも、今は1秒でも時間が惜しいた見逃す。
「そうよね。なら、ルネが手伝えばすぐ終わるよね」
「まぁ、そりゃあ、俺様は……」
悪魔の王だからな、と鼻の下をさすりながら続きは心の中で言う。
ルネはようやく自分の強さがわかったのかと嬉しそうに体をクネクネと捻る。
'あ、こいつ、思った以上に扱いやすいな'
私はルネの表情を見てそう思った。
料理をだしに使えば簡単に言うことを聞くが、それはこの世界の料理が不味すぎるので仕方ないなと思っていたが、料理を使わなくても言うことを聞きそうなルネを見て、こんな単純なのが悪魔の王でいいのかと何とも言えない気持ちになる。
「じゃあ、ルネが参加すればすぐに終わるよね。なんたって、最強なんだから」
私は目をキラキラさせながら言う。
「ああ。当然だろ。任せろ!俺様が一瞬で魔物どもを木っ端微塵にふっとばっしてやる!」
最強、と言う言葉を1000年ぶりに言われ、気分が良くなったルネは本気を見せてやろうと意気込むが、「あ、それはやめて。魔物の鱗とか金になるから。もし木っ端微塵にふっとばしたら、あんたの飯、昔のスカーレット領のゲロマズ飯にするから」と真面目な顔と声で言われ、一気にやる気がゼロになった。
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