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フリージア領 2
しおりを挟む「……つまり、我が領土は何者かの手によって呪われたと言うことですか?」
話を聞き終わった侯爵の顔色は真っ青で今にも倒れそうなくらい酷い。
侯爵たちはこれは呪いではなく、疫病と魔物のせいだと思っていたので、本当は呪いのせいだったと知り動揺した。
これまで侯爵は人を救うために人生を捧げてきた。
毎回うまくいくわけではないが、それでも大勢の命を救った。
本来なら感謝され、呪いをかけられるなんてあってはならないことだが、侯爵の地位を狙うものは大勢いる。
国王の最側近ともなれば理由は充分だ。
恨みなどなくても、自分の役のために人を蹴落とすものは存在する。
「断定はできませんが、その可能性が一番高いです」
侯爵には断言できないと言ったが、呪われているのは間違いない。
アイリーン、ルネ、シオンがフリージア領にきて呪われていると言ったからには間違いない。
本当はそうだと言いたかったが、たかが男爵令嬢に何故そんなことがわかる、と言われたら面倒なので断言せず、一番可能性があると助言するような感じで言う。
「侯爵様。私に手伝わせてください。私なら、この悪夢を終わらせられます」
'私の知識と3人の王の力を持ってすれば楽勝だ'
「それは本当か!?」
侯爵は私の言葉を聞いて疑うどころか信じた。
この状況で助けられる発言をすれば、罵られたり、嘘つきと言われたり、この状況を作った犯人だと疑われても仕方ないが、何故か侯爵は彼女ならできると確信していた。
長年の経験からくるものか、ただの期待なのかはわからないが、自分たちではこれ以上どうすればいいかわからないため、例え階級も年齢も下の子の力を借りるしかなかった。
「はい。そのために、公子様に水の妖精と契約してもらったのです」
私はわざと自分がノエルと妖精を契約させたという言い方をする。
何故そんな言い方をしたかと聞かれれば、理由は簡単だ。
自分の手柄はちゃんと知っててもらわないと後でその分の報酬がもらえなくなるからだ。
「え?は?ノエルが?……ノエル。本当に水の妖精と契約したのか?」
侯爵は信じられず何度も瞬きしながら尋ねる。
後ろで黙って話を聞いていた夫人と騎士達も同じように信じられないのか、疑うような目つきでノエルを見る。
彼らがそんな反応するのは無理もない。
ノエルは女好きでボンクラ。
はっきり言って侯爵家のお荷物だと思われている存在。
そんなノエルが妖精の中で最も人間に有効的な水の妖精といえど、契約したなんてあり得ないと思ってしまう。
もし、ノエルが水の妖精と契約したと言ったのがローズでなかったら誰も信じなかった。
それほどノエルが妖精と契約するなどあり得ないからだ。
「はい。しました。彼が……」
ノエルはルュールュエのことを紹介しようとするが、それより先にルュールュエは一歩前に出て自分で自己紹介をしはじめた。
「初めまして。私は水の妖精、ルュールュエと申します。これからよろしくお願いします」
ノエルと契約した以上、これからはフリージア領に住むことになるので、これからお世話になるであろう彼らに挨拶をする。
「私はキアン・フリージアと申します。こちらこそよろしくお願いします」
侯爵はルュールュエの所作や話し方、纏う雰囲気から彼が上級妖精だと気づく。
昔、侯爵が子供だった頃、女性の妖精に助けられたことがある。
その妖精は自分のことを中級だと言っていた。
侯爵はその妖精より、ルュールュエの方が遥かに強いと勘でわかった。
そんな妖精と自分の息子が契約するなど、どう考えてもあり得ない。
そのときふと、さっき言ったローズの言った言葉を思い出した。
ーー公子様に水の妖精と契約してもらったのです。
この言い方だと、まるで彼女がノエルとルュールュエを契約させたように聞こえる。
'ローズ嬢。あなたは一体何者なのですか?'
侯爵はローズの方を見ると目が合い微笑まれた。
その笑みは、まるで考えていることを全て見透かされているような感じだった。
だが、不思議と気味悪く感じなかった。
「俺が話している途中だったのに……」
ノエルは話を遮られ、2人で自己紹介を始められ不満げに呟いてから、これから何をすればいいのかをローズに尋ねた。
いくらボンクラ息子でも、荒れた街を見て、魚人されたら、何もしないなんてできない。
自分にもできることをしたいと思った。
「ローズ嬢。指示をしてください。我々はあなたの指示に従います」
侯爵もノエルに賛同するように言う。
この悪夢を終わらせてくれるならなんでもする。
そんな思いで侯爵は指示を求める。
「わかりました。では、まず皆さまには町の人達の隔離をしてもらいます」
「隔離ですか?」
私が指示を言うと今まで黙って話を聞いていた夫人がなぜそんなことをするのかと聞き返す。
「はい。理由は2つあります。1つは町の人たちを治療するために同じところにいてもらった方が移動の時間が減り、治療に専念できるという点と症状を把握できるという点です。町の人、全員が呪いをかけられたからと言って同じような症状とは限りません。呪いのせいで歩くのも困難な人もいれば、なんとか歩ける人もいるはずです。個人差があると思うんです。散らばっていると把握するのに時間が掛かりますが、固まっていると早くわかります」
私が1つ目の理由を述べると聞いていた者たちは納得したのか「なるほど」と感心したような顔をする。
「もう1つは浄化作業をするためです。呪われた以上、原因を突き止め、浄化しなければ、フリージア領は今以上に荒れ果てた土地になる筈です。一刻も早く原因を突き止め、浄化するためにも、言い方は悪いですが町から出ていってもらわなければなりません」
2つ目の理由を言い終わるとフリージア領の人たちの顔色が曇る。
私に言われなくてもわかっていたが、敢えて言われたことで余計に今の状況を改めて認識し、本当に最悪の事態なのだと思い知る。
「ですので、これら2つをするためにも、まずは皆さまに領民を隔離してもらいます」
「わかりました。今すぐ皆を隔離させてきます」
侯爵は領民を町から出すには自分が説得してやるしかないと思い返事をする。
「待ってください」
屋敷から出て街へと向かおうとする侯爵を慌てて引き留める。
このまま何もせず行かれたら、侯爵も呪われてしまう。
「侯爵様。そのまま行かれたら呪いにかかってしまいます。呪いを跳ね返す魔法をかけてから言ってください」
私がそう言うと侯爵はそんなことまでできるのかと驚いた顔をする。
'するのは私じゃないけど……'
少し複雑な気分になるが、契約している以上、私が主人であるため手柄は私のものだと、そう自分に言い聞かせてルネの名を呼ぶ。
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