73 / 81
フリージア領
しおりを挟む「あれ?私、自己紹介してませんでしたか?」
私はノエルの言葉で自己紹介をしていないことに気づいた。
さすがにやらかしたな、と思いながら軽く咳払いをしてから名を名乗る。
「今さらですけど、改めて自己紹介しましょうか。私はローズ・スカーレットと申します。先程、公子様がおっしゃった雪男と契約した人物とは私のことです」
男爵家の者とバレた以上、ノエルに対して敬語を使わなければいけないことに、内心面倒くさいと思いながら貴族としての規則に従う。
「……!」
ノエルは私の態度がいきなり変わったことに驚きを隠せなかった。
見た目や言動からどう見ても貴族には見えなかったが、今の自己紹介で見せた口調や所作は完璧で、どこからどう見ても貴族にしか見えなかった。
さっきまでと全然印象が違うなと少し混乱していたが、ふとあることを思い出した。
'あれ?俺って侯爵家の人間だよな?で、ローズ・スカーレットは男爵家の人間だよな?それなのに、なんで、年も階級も上の俺にタメ口?態度もデカかった。俺が侯爵の人間って知ってたのに?タメ口?'
この世界では階級は絶対。
どの家に生まれるかで人生が決まるくらいの階級世界。
そんな世界で生きてきたノエルには、侯爵家の人間とわかっていてタメ口で話しかけ、殴ったり、容赦なく脅したりする思考回路が理解できず混乱してしまう。
「公子様。何かおっしゃりたいことがあるなら、どうぞ、遠慮なくおっしゃってください」
何か言いたいげに見てくるノエルに言いたいことがあるならはっきり言えと遠回しに言う。
「いや、なんでもない。ただ、君があのローズ・スカーレットだということに驚いただけだ」
'正直に言ったら怒るくせに!'
ノエルはタメ口で話したことを指摘し、揶揄ってやろうとするも、すぐにそんなことをすれば自分の身が危険になると思いやめる。
さ笑顔でなんでもない、と言う選択しかなかった。
「そうですか」
私はノエルの言葉を聞いて少し驚いた。
タメ口や失礼な態度のことを言われる子かと思っていたが、笑顔でなんでもないと言われ大人の対応もできたのだと少しだけ困惑したが、すぐに気を取り直し「では、行きましょうか」と言って氷の鳥に乗り、フリージア領へと向かう。
※※※
「想像以上に酷いわね」
私は暗くなった海を見て顔を顰める。
フリージア領にはまだ着いていない。
着くまでもう少しかかるのに、ここまで離れた海にまで被害が出ていることに思った以上に深刻なのだと知る。
「シオン。スピード上げて」
私は少しでも早く着いて治療をしなければと思いそう言った。
「ああ」
シオンはそう返事をすると速度を上げる。
時間にすると2分程度でフリージア領に着いた。
最初に侯爵に挨拶とノエルのことを報告しないといけないので、屋敷のところに降り立つ。
普段ならこんなことをしたら罪に問われるが、今が緊急事態なのと、ノエルも一緒といることで許されるとわかった上で私はシオンに降りよう指示をだした。
私たちが鳥から降りると侯爵と夫人、騎士達が慌てて駆け寄ってくる。
侯爵は私の顔を見た後、ノエルに気づき、息子が何かやらかしたのかと思い、頭が痛くなりながら騎士達に心配しなくていいと手で合図を出す。
その合図を見た騎士達は警戒を解く。
「お久しぶりです。ローズ嬢」
先に侯爵が挨拶をする。
「はい。お久しぶりです。侯爵様」
'やつれてるな。この間とは別人みたいだな'
侯爵がスカーレット領にきて、ジャムを売った時が何年前かのように感じるほど、今の侯爵はやつれていて心配になる。
「連絡もせず、いきなり訪問したことをお詫び申し上げます」
男爵家の者が侯爵家に許可も貰わず、訪問するなど本来なら許されないので謝罪をする。
「いや、気にしないでください。息子がご迷惑をお掛けしました。連れてきてくださり感謝します」
侯爵は頭を下げてお礼を言う。
何があったか知らないが、ノエルが一緒にいる時点で何かやらかし、連れてきてくれたのだと気づいていた。
そもそも、ノエルの着ている服が普段とは違って装飾も色も地味なので、服を借りるような何かをやらかしたことに頭が痛くなる。
「ノエル。話しは後で聞く。中に入ってなさい」
侯爵は鋭い目つきでノエルを見て、冷たく言い放つ。
ノエルが言い返そうとする暇も与えず、私に向かって今度は柔らかい目つきで優しくこう言った。
「ローズ嬢。此度の件のお礼は後日、必ずさせてください。申し訳ないが、今日はおもてなしするのが難しいため許して欲しい」
遠回しにここは危険なので早く帰るよう言う。
侯爵家は魔法使いたちの結界のお陰でなんとか清潔さを保っているが、結界から一歩でも出れば空気は淀み息苦しさを感じる。
町はもっと酷い。
お礼などいつになるかわからないが、迷惑をかけた分は必ず何かしなければと、負担がさらに増え、侯爵は頭が痛くなるがそれを顔に出さず微笑む。
「ありがとうございます。楽しみにしています」
'さすが、国王の最側近。いくら大変でも顔には出さないわね'
だが、ここに来たのはノエルを送り届けるためではない。
それはついでだ。
「ですが、今日訪問したのは公子様を送り届けるためではありません。フリージア領にかけられた呪いを解くためです」
「!?」
私の言葉に侯爵は驚きのあまり息を止めてしまう。
すぐに冷静さを取り戻し、何故をそれを知っているのか、領民を救えるのか、色々聞きたかったが、金魚のように口をパクパクさせるだけで声は出なかった。
そんな侯爵の表情を見て私は何を言いたいのかがわかり、順を追って呪いを知ったきっかけから話す。
全ての始まりはノエルがセイレーンに呪いをかけられ化け物としてスカーレット領の海に現れたことが始まりだと言うことを。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる