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それを聞いたアイリーンは自分の聞き間違いかと思い、何度も目をパチパチさせた。

もう一度言ってくれと頼もうとローズを見ると、妖しく微笑んでいて聞き間違いではないなと思った。

主人のことは信頼しているし、信用している。

会ったときからずっと自分では計り知れない存在だった。

疑ったときもあったが、終わってみると全て納得できたし、疑ったことを後悔した。

今回もそうなのだろうと思うが、それでも「なぜ護った妖精ではないのか?」と不思議に思ってしまう。

そんな自分の考えを見透かしたのか「すぐにわかるわ」と、さっきの妖しい笑みとは違い、包み込むような優しい笑みを向けられ「ご主人様がそう言うならきっとそうなのだろう」と考えるのを放棄する。

アイリーンは言われた通り、別の妖精を適当に呼び出そうと、水の妖精全員に語りかけようとしたそのとき「あ、できれば男性で厳格な妖精でお願いね」と言われ、通信を一旦終了させる。

「わかりました」

アイリーンはなぜ男性で厳格な妖精がいいのかわからなかったが、理由を考えてもローズが何を考えているか全くわからないため意味がないと諦め、言われた通り、男性で厳格な妖精を呼び出そうと通信魔法を発動する前に記憶を引っ張りだして該当者を探す。

その頃、水の妖精たちはいきなりアイリーンから通信魔法がかかってきて何を言われるのかと身構えていたら、すぐに切れたため何事かと慌てていた。

アイリーンがようやく封印から解き放たれ、良かったと安堵した束の間、人間と契約した、その者の意向で正体を隠すことにしたから会いに来なくていいと言われ、会いにいけなかったのに、突如訪れた王との会談が途切れ、また封印されたのかと心配で一刻も早く助けなければと気が気ではなかった。




'よし。アイリーンは一旦これでいいとして、残りは……'

後ろを振り返り4人を見る。

「シオンとオリバーは綺麗になった鱗を全部薬に変えて」

「わかりました。作り方を教えてください」

オリバーはセイレーンの鱗が薬にも武器にもなることは知っていたが、どうやったらそうなるのかは知らない。

「シオンに聞いて」

私はシオンを指差しながら言う。

それを聞いたシオンは「え?」と間抜けな声を上げ、私を見上げる。

'え?俺が?'という顔をするが私が「もちろん。知ってるわよね?」と笑顔で聞くと、「もちろん、知ってます」と引き攣った笑みを浮かべながらそう答えた。

「だ、そうよ。私がご飯作り終える前に全部作ってね」

今の爆弾発言にシオンは顔が真っ青になり「無理だ。絶対無理だ」と抗議する。

「え?何で?」

アイリーンが綺麗にしたばっかの鱗の量は確かに多いが、ご飯もすぐできるわけではないし大丈夫だろうと思って言ったのに、シオンに無理と言われ理由が知りたくなる。

「量が多い!」

シオンは大きい声を出す。

'そんなに多いか?'

鱗の山を見て大声で言うほどかと首を傾げる。

このときの私はすっかり忘れていた。

鱗は私がとったのだけでなく、セイレーンの群れを攻撃して手に入れた分があるということを。

「約600匹の鱗をご飯ができるまで2人で終わらせろなんて流石に無理だ!」

シオンにそう言われて私はようやく自分が倒したセイレーンだけではなく、あと574匹分もあるということを思い出した。

'あー、そうだった。すっかり忘れてたわ。てか、可愛いな。おい'

今は関係ないと思いながら、子供の姿で必死に訴える姿はとても愛らしく母性をくすぐられた。

気づけばシオンの頭を撫でていた。

私のその行動にシオンは「これは一体何の警告だ!?」と顔を青くして、全身から嫌な汗が吹き出した。

本来ならこの光景は傍から見れば微笑ましいが、それをしている人物が悪魔以上に悪魔な人間と子供の姿に変身した冬の王なので見ている者たちは悪寒が走った。

アイリーンだけはシオンのことを羨ましそうに見ていたが。

「ごめん。ごめん。あんたたちがとってきた鱗のことを忘れてたわ。とりあえず、できるだけでいいから、頼むわね」

「……わかりました」

シオンは契約してから初めて悪魔のような人間に軽い謝罪だったが、謝られ困惑して固まってしまう。

少しして我に返ると頭に違和感がある。

まさかと思いつつ上を向くと、まだ頭を撫でられていた。

このまま頭を撫でられ続けたら、恐怖で胃が痛くなりすぎて何もできなくなると思い「主人」と言う。

「ああ、ごめん、ごめん」

シオンはたった二文字を口に出しただけだが、それだけで何を言いたいのか私にはわかった。

いつまで頭を撫でるのか、と。

言われなくてもわかってはいるが、シオンの髪の毛はふわふわで気持ちよくずっと撫でていたくなる。

早く頭から手を退けなければと思うが中々やめられない。

「……」

「……」

「いつまで撫でるつもりですか」

シオンはこれ以上は耐えられず、怯えた目でローズを見上げる。

「わかったよ。もうやめる」

これ以上は駄目だよな、と思いつつ10回ほど頭を撫でてから手を退けた。

ようやく解放されたシオンは恐怖から解き放たれ安堵する。

私が背を向けると、その場に倒れ込むように座り、全力疾走でもしたかのような呼吸を繰り返した。

「最後にアスターとルネね。2人には今から屋敷に戻ってお父様に報告してきてもらおうかな」

「報告?なぜだ?」

ルネが尋ねる。

「なぜって、報告するのは当然でしょ。これは領地の問題何だから。あんたはほう、れん、そうって言葉を知らないの?」

私がそう言うと「ほうれんそうって、あの食べ物のことか?そんなの当然知ってるに決まってるだろ」と全員が思う。

「……そっちじゃないわ」

ルネや他の者たちの顔を見て食べ物の方を思い浮かべているな、と簡単に予想でき、それではないと否定する。

「報告、連絡、相談の最初の文字をとった方の報連相よ……もしかして知らないの?これだから身勝手な悪魔の王様は」

私はわざとらしくため息を吐き、ルネを馬鹿にする。

ルネは馬鹿にされたのが悔しくてワナワナと体を震わす。

文句を言おうにも事実なので言い返せないし、何より文句を言ったあとが怖いので我慢するしかない。

私はそんなルネを見るのが楽しくてニヤニヤと笑っていたが、ノエルの言葉を聞いた瞬間、心臓が止まるかと思うくらいヒヤッとした。

「今、悪魔の王様って言ったか?」
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