59 / 103
人助け 4
しおりを挟む「主人は一人で大丈夫か?」
ルネはノエルも残るのに役には立たないだろうと思いカウントせずに尋ねる。
「心配ないわ。さっきも一人だったでしょう」
遠回しに、どの口が言っていると言う。
ルネはサッと視線を横にずらし「張り切って頑張るぜ」と本来なら絶対言わないような言葉を言って誤魔化そうとする。
「ええ。頑張ってね」
笑顔で伝えるがルネには「失敗したらわかってるよな」と言っているように聞こえ、格下相手だから失敗などあり得ないのに命の危険を感じた。
ルネが放心していると後ろからルネを弾き飛ばしたアイリーンが「ご主人様。本当にお一人で大丈夫ですか?」と心配そうに尋ねた。
それに私は、ルネに向けた笑顔とは違った笑みを向け、安心させるようにこう言った。
「ええ。大丈夫よ。毎日鍛錬したし、アイリーンのおかげで魔法も上達した。それに、ここはスカーレット領地。よっぽどの馬鹿じゃない限り襲ってこないわよ。だから、安心してセイレーン討伐をしてきて」
私はそこまで言ってからアイリーンの小さな手を取り続けて言った。
「彼は妖精の加護があったからまだ死んでないけど、普通の人には加護なんてないでしょう。一人でも多くの命を救うためにも、戦ってきて。私はここでみんなの帰りを昼食を作って待ってるから。ね?」
「はい。すぐ終わらせて帰ってきます」
アイリーンはその言葉を聞いて、なんてお優しい方と感激した。
それを見ていたルネはケッと気に食わないと顔にだす。
4人の温度差は激しさかったが、素直にアイリーンの水魔法で作った龍にのり、フリージア領地まで猛スピードで向かった。
私は笑顔で4人を見送る。
元々、自分が食べたくて海まできたが、ノエルと出会ったことで、いい儲けできたと喜ぶ。
※※※
「なぁ、本当にこの気持ち悪いのを使って料理するのか?」
ノエルは初めて魚以外の海の生物をみて顔を顰める。
「そうだけど、文句あんの?」
「ない……が、食べられるのか?それ」
ぐにゃぐにゃと動く生物があまりにも気持ち悪くて悲鳴をあげそうになる。
「食べられないものを普通食べようとはしないと思うけど……」
'お前は私のことをなんだと思ってんだ?'
ノエルの失礼な質問に私にどんな印象を抱いているのか気になった。
だが、すぐに元の世界とは違いこの世界では海の生物を食べる習慣がないため仕方ないと思いなおす。
特に今から調理しようとしている生物は確かに見た目は気持ち悪いので。
私は息を吐いてから、今からなんの生物で何を作ろうとしているのか、暇なので説明しながら料理することにした。
「この気持ち悪いのはタコです。同じような見た目て上が三角なのがイカです。それで、この全身トゲトゲの黒いのはウニです。こっちは……」
ノエルはいきなり何を言ってるんだ、と思うも話を折ったら殴られそうな気がして黙って聞いていたが、途中からすごい博識だなと思いながら聞いていた。
「では、今からこれらをきって刺身にしていきます」
アイリーンの水魔法で食材は小さな水の塊の中にいて、死んではいないので新鮮だ。
4人が帰ってくる前に、先にノエルに海の食材の虜にして、胃袋を掴み、逆らえないようにしておこうと決める。
最初にどれを食べれば刺身の虜になるか考えていると「刺身とはなんだ?」とノエルは初めて聞く単語の意味がわからず尋ねた。
「なまの魚を薄くきって、醤油につけてたべる料理のことよ」
「なまでか!?」
ノエルは今の発言が信じられず大声を出す。
「そうだけど……」
'え?なに?まさか、この世界では魚をなまで食べる習慣がないとか?え?嘘だよね?'
そのまさかだった。
この世界では魚をなまで食べるという習慣がなかった。
魚は焼くか蒸すかのどちらかで食べるのが当たり前だった。
2人の間に重い沈黙が流れる。
絶対なまで魚を食べたいものと、なまで食べるなど信じられない、焼いてたべるのが当たり前だと思っているものの晒し出す空気は異様なものだった。
しばらくの間、どちらも何も言わない、動かないでいると、急にどこからか歌声が聞こえてきた。
まさか、と思った次の瞬間、ノエルが虚な目で歌声の聴こえる方へとゆっくりと歩き始めた。
「勘弁しろよ。クソヤロ」
気づけば私はそう呟いていた。
せっかく面倒なことを押し付けられたと思ったのに、なぜかセイレーンが自分の領地に現れ、ノエルを誘惑している状況になんとも言えない感情が湧き上がってくる。
「おい。目を覚ませ。止まれって」
ノエルの腕を掴み足を止めさせようとするがびくともせず、逆に引きずられるようにして海に近づいていく。
「これは仕方ないよな」
最初は優しく目を覚まさせようとしたが、無理だったので少し痛くても食べられるよりはいいはずだと、そう自分に言い聞かせ、ノエルに飛び蹴りした。
蹴られた衝撃で砂に倒れたノエルは我に返り「え?なんで?俺、倒れてんだ?てか、頭の後ろ物凄く痛いんだけど、なんで?」と自分に何が起きたのか把握できずに混乱していたが、さらに追い討ちをかけられるようにお腹に何かが落ちてきて強烈な痛みに死にそうになる。
「目、覚めたか?」
私はノエルのお腹に乗ったまましゃがみ、そう尋ねる。
「え?あ、はい。覚めました?」
ノエルは何を聞かれているんだと思いながら、とりあえず返事をする。
「……それより、いつまで乗ってるつもりだ?」
いい加減どいてほしくて言うが、笑顔を向けられたまま彼女は退く気配がない。
「そうね。私も早くここから降りたいんだけどさ、何か私に言うことないかなって思って」
「……?」
退け、以外に何かあるのかとノエルは首を傾げる。
「そっか、そっか、ないんだ。いや、いいんだよ。別に、ないって言うなら。ただね、さっきまで話してた魔物の歌声に惑わされて海に入っていきそうな誰かさんを止めたのにさ、私がいなかったら今度こそ確実に食べられていただろうけど、何も言うことないって言うなら、それは仕方ないよね。うん。別に、ないならないんでいいだよ。本当に」
最後の方は思いっきり足に力を込めてお腹に体重をのせる。
ノエルは痛みと苦しみで「うっ」と呻く。
お礼を言うまで、ずっとこのお腹にのられるのかと思うとさらに痛みと苦しみが増し、さっさと済ませて退いてもらおうと口を開く。
「ありがとうございます。助かりました。あなたは私の命の恩人です」
ちゃんとお礼も言ったし、さっさと退いてくれと目で訴えるが、なぜか退いてくれない。
一体どうしてと考えていると、時間が経つにつれお腹が痛くなってきて、それどころではなくなった。
早く退いてほしくて色々と口走るがノエル自身何を言っているか本人もよくわかっていなかった。
最後に「なんでも言うこと聞きます」と言ってしまう。
流石にこれは言ってすぐダメなやつだと後悔して撤回しようとしたが、既に時は遅かった。
にこやかに微笑んでいた女性は、子供が大泣きして逃げるような凶悪な笑みを浮かべ「その言葉忘れないでね。公子様」と言われてしまう。
'いったい俺はこの悪魔に何をさせられるのだろうか'
助けられたことを後悔しそうになるほど、全身に悪寒が走り、ノエルは「きっとこの先、この女以上に恐ろしい存在に会うことはないだろうな」と現実逃避をするように遠い目をして空を見上げた。
1
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します
湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。
そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。
しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。
そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。
この死亡は神様の手違いによるものだった!?
神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。
せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!!
※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる