53 / 109
海 4
しおりを挟む「あんたたち!今までどこいってたの!?」
ルネとシオンの声が聞こえ、後ろを振り向きながら言うと「うわっ!化け物!」と2人に叫ばれた。
アスターはそれを聞くとプッと吹き出した。
2時間にも満たない間に何度も化け物と言われ、2人にまた化け物と言われたせいで、とうとう堪忍袋の緒がきれた。
私は3人にニコリと笑いかけると、ボコボコに殴った。
3人は私の表情を見た瞬間「あ、これは抵抗したら駄目なやつだ」と瞬時に悟った。
殴られたあとは上半身だけ砂の中に入り、お尻から下は砂から出ていたため、間抜けな姿を晒していた。
「私がいいと言うまで出てくるなよ」
声や口調は柔らかく怒ってないように聞こえるが、よく聞けば冷たく突き放すような言い方だ。
3人は頭が砂の中に入っているため返事をすることはできなかったが、声は聞こえていたので素直に砂の中で待機する。
「ご主人様。私の魔法で砂をはらいましょうか?」
アイリーンはガイランにたいする怒りで、最初に主人を綺麗にしようとしなかった自分に後悔する。
「え?いいの?じゃあ、お願い」
'水魔法ってそんなのもできんの?'
砂をはらうには風魔法を使うしかないと思っていたためその発言に驚いたが、アイリーンができるというならできるのだろう。
ラッキー、と思いながらどうやってはらうのか期待した目でアイリーンを見ると、まさかの小説で書かれていた大技魔法を発動した。
水魔法 34の舞 水舞花蝶
アイリーンの使う魔法は他の水の妖精や魔法使いとはレベルが違う。
特に20以降の舞はアイリーンにしか使えない。
今発動した34の舞、水舞花蝶は水の花びらと蝶が標的にされたもの周りで舞い、相手を殺す魔法だ。
アイリーンは標的を砂に設定し消していく。
'え!?嘘でしょう!?たかが、砂をはらうだけでその魔法を……!?'
魔王の親衛部隊を倒した魔法が発動されたのをみて「絶対違う!こんなことに使っていい魔法じゃない!」と思うも、あまりに美しい魔法に見惚れてしまう。
他の4人もあまりに美しい魔法につい見惚れてしまう。
砂が全てはらわれると魔法は消えた。
「ありがとう。アイリーン」
砂がはらわれたおかけで気持ち悪さが消えた。
「ご主人様のお役に立てて嬉しいです」
アイリーンはお礼を言われ喜ぶ。
「本当に人間だったんだ……」
ガイランは砂がはらわれた私を見てそう呟くと、いつの間にか砂から顔を出していた3人に話しかけられた。
「わかる。人間か疑わしいよな」
ガイランの言葉に激しく首を縦に振るルネ。
「悪魔より悪魔な女だからな。勘違いするのは仕方ない」
隣で同じく首を縦に振るシオン。
「2人共、彼はさっきまでのお嬢様の姿についていっているのであって性格のことを言ってるのではないと思いますよ。まぁ、でも、言ってることは間違いないですけど」
アスターはフッと鼻で笑いながら言う。
「あの、彼女と知り合いなんですよね?」
'普通、知り合いを化け物と罵ったら怒るのでは?'
ガイランは自分の家族や友達が「化け物」と言われるのは絶対に嫌だ。
だから、3人の薄情な態度にガイランは不快な顔をする。
「はい。そうですね。私たちの主人です」
アスターが答える。
「彼女は主人なのに、そんな態度なんですか?」
いくら嫌いな主人であったとしても、本人が目の前にいるなら隠すべきだ。
ガイランは3人の態度が信じられず、気づけばそう尋ねていた。
「まあ、そうですね。いつも、こんな感じですね」
アスターはなんでもないように答えるが、普通なら使用人や騎士が主人にそんな態度を取れば最悪死刑でもおかしくはない。
「主人に化け物と言ってなんとも思わないのですか?」
「思いますよ。化け物が主人なんて恥ずかしいです」
アスターがそう言うとルネとシオンも同じ意見なため頷く。
「いや、そうでなく……」
ガイランは質問の意図を勘違いされたと思い、言い直そうとしたが「事実なので仕方ないんです。お嬢様が化け物なのが悪いんです」と態度が悪いのはさも自分が悪いわけではないと言う。
「そうだ!そうだ!」
ルネとシオンも化け物なのが悪いと同意した瞬間、また3人は頭を殴られ上半身だけ砂の中に埋まる。
「おい!誰が出ていいって言った?いいと言うまで出てくるなよって言ったよな!」
私は怒りを隠すことなく顔に出す。
「ふざけんな!殺す気か!?」
ルネが砂から顔を出す。
悪魔の王が砂の中に顔を埋められただけで死ぬことはないが、これ以上無様な姿を晒すのはプライドが許さず、そう叫ぶ。
「そうだ!殺す気か!」
シオンも冬の王なので死ぬことはないが、ルネと同じ気持ちのため叫ぶ。
「あんたらは死なないでしょう?何言ってんの?」
私がそう言うとアスターが砂から顔を出しこう言った。
「私は人間なので死にます」
だから出してください、と続けようとしたら「スカーレット家の騎士ならできるでしょう?」と笑顔で言われ黙り込む。
「さっさと元の体制に戻りな」
「……」
私が冷たく言い放つと、3人は聞こえてないふりをする。
「もう、いいわ。そのままで」
諦めてそう言うと3人はあからさまに勝ち誇った顔をするが、次の言葉を聞いて絶句する羽目になった。
「3ヶ月、自炊しな」
「……!」
「わかってると思うけど、スカーレット家の料理人を勝手に使うことは許さないからね。もちろん、私が作った調味料は絶対使わさないから」
私は調味料のところを特に強調しながら言う。
「……!!」
3人は料理を作る手伝いはさせられるが、具材を切ったり、焼いたり、混ぜたりするだけで味付けはどうすればいいかわからない。
そもそも、調味料が使えなければ意味がない。
前からあったのは買えば使えるが、1人で作る自信がないため無理な話だ。
既に胃袋を掴まれた3人には「自炊をしろ」という命令は死ねと言っているようなもの。
3人は慌てて謝り、元の体制に戻る。
その光景を黙って見ていたガイランは「え?なに?この主従関係。怖すぎるんだけど……いや、それより俺、もしかしてやばい奴に喧嘩売ったのか?」とようやく自分がどれほど危険な人物に喧嘩を売ったか気づき青ざめる。
「ねぇ」
私が声をかけるとガイランは大袈裟に肩を揺らし「はいっ!」と声が裏返った返事をする。
「……」
'なに?こいつ?'
いきなり態度が急変したガイランを不審に思いながら話を続ける。
「あんたの本当の名前、ノエル・フリージアだよね?」
最初はガイランという偽名を聞いても思い出せなかったが、どこかで聞いたことある名だとは思っていた。
この世界で聞いたことあると思う人物名など数人しかいない。
私はこの世界が舞台となる二つの小説の登場人物を1人ずつ思い出し、片っ端から潰していくことで、ノエルが町で過ごすための偽名がガイランだったということを思い出せた。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる