上 下
44 / 81

かき氷

しおりを挟む

「それで、この土地で野菜やそれ以外も育てることはできますか?」

「もちろんできます。我々はエルフです。どんな土でも、望むものを作るとこができます。来年には大量の野菜達を収穫できるとお約束します」

「それはそれは、とても頼もしい限りですね。期待しています」

さすが、エルフ!、と私は頭の中でグッジョブポーズをする。

「主人様。なにをお望むでしょうか」

「そうですね。全部と言いたいところだけど、流石に難しいですから。とりあえず……」

私は野菜の名前を挙げていく。

「……ってところですね。あ、それと稲もできますか?」

「もちろんでございます」

「それじゃあ、それもお願いします。後で追加でお願いするのも出てくるかもしれませんが、そのときはまた頼みますね」

「わかりました」

エビネはローズの笑みを見て、これは拒否権ないな、と悟る。

「では、畑はエルフの皆さんにお任せします。何かあれば言ってください」

「はい。それと、主人様。これからは我々、エルフに敬語を使う必要はありません。我々はスカーレット領民になりましたので」

「わかったわ。これからそうするわ」

「はい」

エビネは頭を下げ、己の立場を示す。

ここまでしなくてもいいのに、と思ったがせっかくの好意なので素直に受け取る。

私はエルフ達への用件を済ますとまた屋敷へと戻る。



※※※



「気に入りましたか?天ぷらは?」

私は屋敷に戻るとまずダークエルフ達の元へと向かった。

「はい!とても気に入りました!」

ウィンターは目を輝かせて返事をする。

周りにいたダークエルフ達も同じような目をして私を見る。

「あの、この天ぷらを考えたのは主人様だと聞きました。本当ですか?」

名前も知らないダークエルフが恐る恐る話しかけてくる。

「ええ。本当よ。他の料理も私が考えたわ」

正確に言えば、元の世界で食べていた料理をこの世界で作っただけ。

考えたのは昔の人達であって私ではないが、この世界では私が初めて作った人間なので嘘は吐いていない、とそう自分に言い聞かせる。

「……!」

ダークエルフ達はさっきよりも目を輝かせる。

「あなた達が私のいう通り毎日働いてくれたら一日三食、美味しい料理を提供するわ。どう?働く?」

契約した以上、ダークエルフ達に拒否権などないが、これはやる気の問題だ。

無理矢理やらされるのと自ら率先してやるのでは作業のスピードも私に対する想いも変わる。

胃袋さえ掴めばこちらのものだ。

私は彼らの答えを聞く前から答えがわかっており、喜びのあまり顔がにやけてしまう。

「やります!」

ダークエルフ達は一斉に返事をする。

「そう。じゃあ、早速働いてもらうわ」

「はい!何なりとお申しけください!」

ダークエルフたちは一斉に跪き、指示を待つ。

「あなた達には果物の種や苗、甘味料、調味料の原料を手に入れてもらうわ。この時期に手に入れられる物を書いた紙を渡すから探してきて。急がなくてもいいわ。ただ……」

'ただ……?'

ダークエルフ達はその続きが何故か無償に気になり首を傾げる。

「早い方がまだ食べたことない美味しい料理を早く食べられるわ」

私がそう言うとダークエルフ達のやる気が上がり、目から炎が見える。

「お任せください!主人様!我々が必ず見つけて見せます!」

「ええ。任せるわ」

本来ならこれは私がやらないといけないことだと思っていたが、ダークエルフ達を手に入れられたことで仕事を押し付けることに成功した。

嬉しすぎて顔がにやけそうになる。

私はランタナに見つけてきて欲しいリストを渡す。

名前だけではわからないので私が描いた絵も一緒に。

元々最初はアスター達に見せて、一緒に探すつもりだったので描いていて良かったと改めて思った。

「では、行ってまいります」

「うん。ご飯の時間までには帰ってきてね。無理はしなくていいから」

無理して体調崩して探す時間がなくなる方が問題だから、と心の中で言う。

「はい。お気遣いありがとうございます」

ダークエルフ達は私の今の言葉が、自分達を気遣ってくれてからのものだと思い、嬉しくて目頭が熱くなる。

時々顔が悪魔みたいに怖くなるが、本当は優しい人なんだと今ので全員が思った。

そう思うのも無理はない。

ダークエルフたちは今までこれほど最高のおもてなしをされたことも、気遣われたこともない。

彼らがローズをいい人と思ったのは、今まで出会ってきた人達が酷かったからだ。

まだ、ローズのために全てを差し出すことはできないが、それでもそれ相応の恩返しはしたいと全員がそう思った。




「行ったな」

ダークエルフたちが何個かのグループに別れて去っていくのを見て呟く。

「お嬢様。一体何を頼んだのですか?」

ずっといたが、邪魔してはいけないと思い黙って見守っていたが、一体彼らに探させるものが何か気になって聞かずにはいられない。

新たな美味しい料理も早く食べたくて私の答えを待つ。

「聞いていた通りよ。まだ誰も知らないものをこのスカーレット領に誕生させるのよ」

「……それで金儲けをすると」

ローズの悪い顔からそう推測する。

「ええ。その通りよ。よくわかったわね」

「まぁ。勘ですかね」

口ではそう言ったが、実際に心の中で思っていたことは「あれだけ一緒にいれば、いやでもお嬢様の考えそうなことはわかりますよ」だった。

「そう。なら、これから私があなたに頼むことは何かわかるよね?」

'イヤな予感がするる……'

アスターは私の笑みを見て全身に悪寒が走った。

「……」

「ちょっと、黙り込まないでよ。わかってるんでしょう」

「国王陛下にお嬢様の手紙を届けるんですよね」

「正解!よくわかってるじゃない。頼んだわよ」

'やっぱり……'

アスターは頭を抱える。

男爵に国王に手紙を出す許可をもらった時点でこうなるのではないかと予想していた。

また、面倒な仕事を押し付けられたと頭が痛くなる。

「……はい」

「じゃあ、今から書くから準備しといて」

「……はい」




「じゃあ、これ陛下に渡してね」

「はい。わかりました」

アスターは手紙を受け取り懐にしまう。

「アイリーン。お願い」

「はい。お任せください」

アイリーンはアスターと馬に付与魔法をかける。

アスター、一人なら一週間もかからず王宮までいける。

だが、アイリーンの魔法をかけられた状態なら三日でいける。

「じゃあ、任せたわよ。帰ってきたら約束通り氷のスイーツを食べさせてあげるから、ちゃんと返事をもらってきてね」

私がそう言うとアスターの表情がかわる。

死んだ魚のような目から、輝き満ちた目になる。

「はい。お任せください」

そう言ってアスターは王宮へと向かっていった。

「全く。現金なやつだな」

私はあまりの変わりように呆れてしまう。

「ですね」

アイリーンが笑いながら頷く。

「さてと、私達は氷のスイーツを食べようか」

「はい。ご主人様」

アイリーンはやっと氷のスイーツが食べられると思い目を輝かせる。



この後、私、男爵夫妻、アイリーンの四人でかき氷を食べた。

この時代にシロップはないので、砂糖水をかけて食べた。

三人は初めて食べるかき氷に魅了され、毎日食べたいと思うようになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

カメリアの王〜悪女と呼ばれた私がゲームの悪女に憑依してしまった!?〜

アリス
ファンタジー
悪女。それは烙印。何をしようと批判される対象。味方は誰もいない。そんな人物をさす。 私は大人気ゲームをしているうちに悪女に設定されたレイシーに同情してしまう。そのせいかその日の夢でレイシーが現れ、そこで彼女の代わりに復讐することを約束してしまい、ゲームの世界に入ってしまう。失敗すれば死は免れない。 復讐を果たし死ぬ運命を回避して現代に戻ることはできるのか? 悪女が悪女のために戦う日々がいま始まる! カクヨム、なろうにも掲載中です。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

処理中です...