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新たな領民
しおりを挟む「ご主人様。全て終わりました」
「ご苦労様」
アイリーンの声が聞こえ、ダークエルフ達から視線を後ろへと向ける。
そこにはアイリーンだけでなく三人もいた。
その三人の後ろには右側にエルフ達、左側には無惨な姿のダークエルフ達もいる。
言われたことを完璧にこなしてくれた四人に満足し、最高に気分が良くなる。
「さて、族長様。我々は約束通りこの戦いを終わらせ、あなた方の大切な方々を救いました。今度は族長様が私との約束を守ってくださいますね」
「……ああ。わかっておるわ」
顔怖いな、この人間、と思いながらどんな願いも受け入れようと決める。
「ありがとうございます。さすが、族長様。では、こちらにサインをお願いします」
族長は書類を受け取り内容を確認してからサインしようと目を通す。
「……本当にこの契約書であってるのか?儂らにあまりにも良い条件ではないか?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ」
族長の言葉を即否定する。
これはエルフ達より私の方が遥かに得をする条件にしてある。
スカーレット領を見たことがないからそんなことが言えるのだ。
エルフ達と交わす契約内容はこうだ。
[この地に住むエルフ達は皆、スカーレット領民になることを命じる。領民となりエルフ達に求めるのは三つある。
一つ、エルフの最も優れた能力として有名な作物を人間と共に育てること。
二つ、スカーレット領が襲われたとき共に戦うこと。
三つ、スカーレット領民と争うことは禁じる。(喧嘩は良い)
これらの三つを守れば、エルフ達の身の安全は私、ローズ・スカーレットの名の下に保証する。そして、衣食住も与える]
エルフ達は何もわかっていない。
この内容、特に一がどれだけ大変なことなのか。
もちろんエルフ達にもそれなりに得はあるから、決して悪い条件ではない。
「問題がなければサインをお願いします」
「ああ……」
族長は約束を果たすためにもサインをしなければと思うが、何故か手が動かなかった。
どうしようもない不安に襲われて、このままサインしていいのかと悩む。
目の前の人間はにこやかに笑っている。
族長は不安に思うのはきっと気のせいだとそう言い聞かせサインをする。
これでエルフ達はこの瞬間、スカーレット領民となった。
私は族長から契約書を受け取ると、嬉しさのあまり顔にそれが出てしまう。
'うっ!どうして忘れたのだ!最初にこの娘を見たとき悪魔だと思ったことを!儂はなんて者と契約してしまったのだ!!'
族長は契約書を渡した瞬間、目の前の人間の顔が悪魔みたいになったのをみて自分の選択が間違っていたと後悔する。
いや、そもそも助けを求めてたのが間違いだったと思い始める。
急に気を失った族長を不思議に思いながら、私はダークエルフの族長のところへといく。
「初めまして。あなたが族長さん?」
全員、顔がボコボコになっているので元がどんな顔かわからない。
ただ、アスターが一人のダークエルフの首元を掴んでいたので族長かと思い尋ねた。
「……」
「はい。そうです」
答えない族長の代わりにアスターが答える。
「そう。とりあえずそこに座らせて」
近くの丁度椅子になりそうな石に座らせる。
私はその前にある椅子に座る。
「族長さん。私と契約しましょうか」
「……!」
族長は小娘のあまりにも恐ろしい顔に気絶しそうになる。
後ろにいた何人かのダークエルフ達は気絶したが。
「はい。これが契約書ね。内容を確認したらサインしてね」
族長の意思など関係なく話を進める。
「……」
族長は逆らっても勝ち目はないとわかっているので素直に従うべきかと思い、内容を確認してサインしようとするが、あまりにも酷い契約内容に抗議する。
「こ、これはあまりにも不当な契約だ!こんなの世界中どこを探したってないぞ!ふざけるな!」
族長のその言葉を聞いたアスターとルネは「いや、すぐそこに(俺様が)います(いる)」と心の中でツッコむ。
「ん?そう?なら、仕方ないわね。無理矢理サインさせるしか」
私がそう言うとアスターは剣を抜く。
そして後ろにいるダークエルフ達を囲うようにアイリーンは右横に、ルネは左横、シオンは後ろに移動する。
そして大量の水の剣、氷の矢、火の玉を出しいつでも攻撃できるよう準備をする。
「選べ。素直にサインするか、これ以上ボコられてから無理矢理書かされるか。好きな方を選んでいいぞ」
'それどっちも無理矢理なんじゃ……'
族長は悪魔だ!この人間は悪魔の中の悪魔だ!と泣きながらサインをする。
「さてと、これからあなた達はスカーレット領民よ。今までいざこざがあったと思うけど、これからは仲良くするのよ……」
私がお願いしているというのにエルフもダークエルフ達もお互い睨み合って仲良くする素振りも見せない。
「おい。仲良くしろ」
「はい」
「はい」
族長達は肩を組み仲良さげに振る舞う。
「そう。それでいいのよ」
私はにっこりと笑う。
族長二人は私が後ろを向いた瞬間に距離を取り、触れ合ったところが気持ち悪くて声に出さずに吐く仕草をする。
私は二人が何をしているか知っていたが、私の前でだけ仲良くできれば問題はないので放っておく。
それより、エルフ達を手に入れたので早く領地に帰り畑を耕してもらうと帰る準備をするが、彼らを手に入れるため山に登ってから何も食べていなかったのでお腹が鳴った。
「お腹すいたな……」
「あの……」
子供のエルフが私に声をかける。
ただ、見た目が子供だからといって私より年下だとは限らない。
「どうしたの?」
「食材が少し残っているのでお作りしましょうか」
その言葉に私は「本当?お願いするわ」と言いかけてやめる。
この世界の料理の基準は最悪。
エルフ達の料理がどの程度かもわからない以上、任せるわけにはいかない。
「何を作るか聞いてもいい?」
「煮込み料理です」
「味付けは?」
「ないです。食材本来の味を楽しみます」
'うん。絶対いや'
「私が作るわ」
食材本来の味を楽しむ人もいるが、私は無理だ。
小さいエルフは有無を言わさない雰囲気に「はい」としか言えない。
「で、何があるの?」
「玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、長芋、ふきのとう、たらの芽、ふき、わらび、があります」
「……」
材料を聞き何を作るかを考える。
「アイリーン」
「はい。ご主人様」
アイリーンは私に呼ばれて急いで近くまでくる。
「私達が持ってきた材料何があったけ?」
「油、小麦粉、塩、片栗粉ですね」
「丁度いいわね。それなら山菜の天ぷらとかき揚げ、フライドポテトにしましょうか」
私が「フライドポテト」と言うとアスター、アイリーン、ルネは喜ぶ。
かき揚げと山菜の天ぷらが何かは知らないが、きっと美味しいだろうと思い、新たな料理を食べれることが嬉しい。
シオンとエルフとダークエルフ達は何を言っているのか理解できず不思議そうな顔をする。
「それで……あなた名前なに?」
「ミモザです」
「ミモザね。それじゃあ、ミモザ。台所まで案内してくれる?」
「はい。こちらです」
ミモザは元気よく返事をすると台所まで案内してくれた。
ただ、後ろの人間の男と二匹の小さい生き物の様子がおかしいのは気になるが、触れてはいけない気がしてミモザは気づいていないフリをする。
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