35 / 103
戦闘
しおりを挟む「思ったより中は普通ね」
外観だけを見たら中もお化け屋敷みたいな暗くて不気味な感じたと思っていたが実際は違った。
「主人の家より綺麗なんじゃないか?」
ルネはケラケラと馬鹿にして笑う。
「ルネ。今なんか言った?」
私はニッコリと笑いかける。
「あ……」
ルネは私の顔を見て5秒前の自分を殴りたくなる。
なんて愚かなことをしたのか、と。
「2ヶ月。おやつ抜きよ」
「なっ!にっ!待ってくれ……じゃなかった。待ってください。俺が悪かったです。それだけは勘弁してください」
ルネはとっくに胃袋を掴まれていた。
特に甘いものが好きだ。
だから、おやつ抜きは困る。
プライドも捨て本気で謝るが……
「3ヶ月」
「……はい」
これ以上抗議しても意味がないと悟り、泣きながら返事をする。
「ご主人様」
「お嬢様」
ルネとの馬鹿な言い争いを終えるとアスターとアイリーンが私を呼ぶ。
その声はいつもより少し強張っていて、すぐに敵が近寄ってきているのだとわかった。
「二人共いける?」
大丈夫だろうとわかっていながら敢えて尋ねる。
「はい。問題ありません」
アスターは剣を抜く。
「はい。お任せください」
アイリーンは水を空気中に発生させる。
「そう。じゃあ任せたわ」
私がそう言うと二人は敵に向かって攻撃する。
ルネは私を守るため待機中というよりは、泣き真似をして戦力にならないので無視した。
二人は私がルネを見ている間に、大半を片付けていた。
アスターの美しい剣捌き、アイリーンの圧倒的な質量の物理攻撃に敵は手も足もでず倒されていく。
'あの二人って今日が初めての共闘よね?何であんなに息ぴったりに動けるわけ?これが主人公とヒロインの最強スケット人の力ってこと?……ふーん。これが今は私のものってことね。いいね!いいね!ちょー最高!'
私は元の世界では手に入れられなかった最強の駒が今は手元にあることに顔が緩む。
ヒィッ!
敵の魔物達はローズを攻撃しようとしたが、悪魔のような笑顔が怖すぎて金縛りにあったみたいに動けなくなる。
その間に、アスターとアイリーンの攻撃を受け倒されていく。
戦闘には参加していなかったが、思わぬ形で二人の手助けをしていたが当の本人はそのことを知らなかった。
「終わりました」
アスターが剣をしまい報告する。
「ご苦労様」
私は二人に言う。
「それにしても冬の王は出てこないわね。まだ何か手があるのかな?」
「間違いなくあると思います。悪魔は卑怯者が多いので」
アイリーンは「卑怯者」という単語を特に強調して言う。
「ハッ。悪魔が卑怯者なら妖精は勘違いな連中だよな。自分達は高潔だと信じて疑わないだから。自分達以外の種族を下に見て馬鹿にしてるじゃないか。それに気づいていないだから、救いようがない。まだ、卑怯者の方がマシだろ」
'また始まった……'
私は二人の言い争いに頭が痛くなる。
ルネと契約して屋敷に戻ってから二人は毎日言い争いをする。
最初はうるさかったから止めていたが、最近は諦めた。
二人の気が済むまで喧嘩させた方がいい。
うるさいが、それくらいなら我慢できる。
「アスター。冬の王がどこにいるかわかる?」
「はい」
「なら、行きましょう。さっさと終わらして帰ろう」
私とアスターは冬の王がいる場所へと向かおうとしたそのとき、天井に無数の氷柱が現れ一斉に攻撃してきた。
「ハハッ。嘘でしょう」
これは私では無理だと思った。
流石にこの攻撃を防ぐのは無理だと。
死ぬ、そう思った。
ここにいるのが私一人だったら。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ご主人様。怪我はありませんか?」
「主人。無事か?」
アスターが半分の氷柱を破壊し、アイリーンが結界を張って攻撃を防ぎ、ルネは残りの氷柱を炎で破壊した。
「ええ。お陰様で大丈夫よ」
'さすが、主人公と妖精王と悪魔の王ね。チート能力はないけど、チートキャラを従える私ってもしかして、もしかしなくても結構最強なのでは?'
三人の強さを目の当たりにして顔がニヤける。
「冬の王め。たかが、季節の王如きがご主人様に牙を向けるとは万死に値する。絶対にゆるさないわ!」
温厚で平和主義の水の妖精王として有名のアイリーンがブチギレてる姿は流石に驚いて固まってしまう。
小説では、アイリーンは一度も怒ったことのないキャラとして書かれていた。
ヒロインが怪我したときも心配はしていたが、怒った描写は書かれていなかった。
そのため私は今目の前にいるアイリーンは本当にあの水の妖精王かと疑ってしまう。
ただ今のアイリーンは本来の姿ではないのでそこまで怖くはないが、これが本来の姿だったら迫力がありすぎて声はかけられなかっただろう。
「ア、アイリーン。落ち着いて。私は大丈夫よ。それに、彼からしたら私達は許可も得ず勝手に入った侵入者だから排除しようとするのは仕方ないわ」
「ですが…」
「ありがとう。アイリーンが私の心配してくれるだけで私は大丈夫よ。それに守ってくれるんでしょう?」
「はい。もちろんです。ご主人様には傷一つ負わせません。髪の毛一本にも触れさせません」
「うん。信じてるよ」
いつものアイリーンに戻ってホッとする。
あのまま、感情の赴くままにアイリーンを冬の王のところにいかれていたら大変なことになっていた。
最悪冬の王が死ぬところだった。
それは困る。
冬の王は金になる存在だ。
それも大金持ちになれるくらいの貴重な存在。
絶対に死なれるのだけは阻止しなければいけない。
冬の王以上に氷の魔法に精通した者はいないのだから。
「それじゃあ、行こう……か?」
'ん?ちょっと待って?わざわざ私が行く必要ある?ここには冬の王より強い悪魔の王がいるのに?'
私はようやく自分が時間を無駄にしていることに気づいた。
最初からルネを向かわせていたらこんなことにはならなかった。
それに悪魔の王がこっちにいるとわかれば、契約がスムーズに進むかもしれない。
それもこちらに有利な条件で。
私はルネの方を向き、軽く咳払いしてから笑顔で話しかける。
'ヒィッ!何だ、この不気味な笑顔は!一体今度は何をさせるつもりだ!?'
ルネは私に笑顔向けられた瞬間、全身に悪寒が走った。
「ルネおやつ3ヶ月抜きの罰を取り消して欲しい?」
「……それはもちろん」
本当はその提案にすぐ飛びつきたかったが、嫌な予感がして断るか悩んだ。
結局誘惑に勝てず返事をする。
「それを取り消してもいいわよ。ただし、あなたが今から言うことをできたらだけど?どうする?やる?」
「……やります」
「ルネならそう言ってくれると思ったわ。良かったわ。あ、最初に言っとくわ。もし失敗したら3ヶ月から倍の6ヶ月に伸ばすからね。頑張ってね」
'なっ!この詐欺師め!俺様を騙しやがったな!'
と、言いたかったが言えるはずもなく、ルネは「……はい」と返事するしかなかった。
「それじゃあ説明するね」
私はルネを見下ろしながら、こらからやって欲しいことを言う。
ルネはガタガタの体を震わしながらローズを見上げて「クソッタレ!」と心の中で罵倒して何とか屈辱に耐えていた。
そんなルネを見たアスターは同情するも、面倒事に巻き込まれたくなかったので、何もせずただ突っ立て二人のやり取りを見ていた。
1
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる