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浴衣&ダンジョン
しおりを挟む「はぁー。気持ちよかったな。また、一緒に入ろう」
男爵が嬉しそうに言うので二人は「はい」としか言えなくなる。
男爵と入るのが嫌なわけではない。
むしろ嬉しい。
だが、どうしても思ってしまう。
自分達のような人間が男爵と共に風呂に入っていいのかと。
「オリバー。これはどうやって着るんだ?」
服を着ようとローズが作ってくれたものを着ようとするが、ボタンや紐がなく着方がわからない。
このままでは袖を通し羽織っただけでパンツが丸見えになる。
そもそもズボンがないのも気になる。
渡し忘れたのかとオリバーの顔を見るも、すぐにそうではないとわかる。
「これは'ユカタ'と言うそうです。着方は右側を手前にして左側を上にしてください。y字になるように合わせてください」
二人はオリバーに言われた通りにする。
「これでいいのか?」
「はい」
オリバーは二人ができてるか確認してから返事をする。
「次にこの帯を腰に巻いて結んだら完成です」
オリバーは手本を見せる。
「結び方は何でもいいのか?」
「はい。お嬢様は帯が解けなければ適当でいいとおっしゃってました」
「そうか。なら適当に結ぼう」
男爵は帯を腰に巻き後ろで蝶々結びをする。
アスターは固結びをする。
浴衣を着て外に出ると女性陣はいなかった。
出てくるのを座って待つことにしたが、男爵があるものに気づいた。
「ん?オリバー。これは何だ?」
「それは足ツボマッサージです。その上に乗ると自身の悪いところがわかる仕組みになっているそうです」
ローズが言っていたのを言っただけなので実際はオリバーも実はよくわかっていない。
「ほぉ。それは面白いな。乗ってみるとしよう」
男爵は好奇心に勝てず足ツボマッサージの上に乗る。
一体どんなものなのか期待した目で乗ったが、すぐに後悔した。
「ぎゃあああーっ!」
男爵はあまりの痛さに悲鳴をあげる。
「旦那様!」
二人は男爵の悲鳴に慌てる。
この足ツボマッサージはそれほど恐ろしいものなのかと視線を向ける。
こんなものをここに置いていていいのか疑問に思い、処分すべきではないかと考え出す。
「大丈夫ですか?」
オリバーが倒れた男爵に手を伸ばす。
「ありがとう。オリバー。これは一体何なのんだ。触ってもそこまで痛くないのに、何故さっきはあれほど痛く感じたのだ?」
男爵はデコボコしているものを突く。
「それは、お父様の体が悪いからですよ。健康なものには全く痛くありませんよ」
私は悲鳴が聞こえ、すぐに足ツボマッサージの上になったのだとわかった。
夫人は悲鳴を聞くなり慌てて飛び出し男爵の元へと駆け寄る。
「それは本当か……?」
男爵は自分の体が悪いと信じられず、嘘だと言ってくれと縋るような顔をする。
「ええ。本当です」
私はそんな男爵の願いをバッサリときる。
そしてこう続けた。
「アスター。乗って。そしたら私の言っていることが本当だとわかるわ」
この中で一番健康な体は間違いなくアスターだ。
アスターは男爵が悲鳴を上げたものに乗るのは嫌だったが、名指しされた以上断ることなどできず仕方なく乗る。
「……痛くない」
乗っても全く痛くない。
アスターは信じられず瞬きを何度もする。
「だから言ったでしょう。健康な体のものには痛くないと。それでお父様はどこいたかったんですか?足ツボのところを見たらどこが悪いか書いてありますよ」
男爵は私の言葉を聞くと、自身の悪いところを確認するためアスターに降りてもらう。
「えっと、ここは……胃か?」
「胃ですね」
「胃で間違いないですね」
「胃ね」
三人も一緒に確認したので間違いないと言う。
「すごいな。これで自分の体の悪いところがわかるなんて。でも、どうすればよくなるんだ?」
男爵の疑問に私はこう答える。
「それは簡単ですよ。健康な体になればいいんですよ」
「確かにそうだな」
男爵は納得し、今日から健康な体を作ろうと決心する。
「じゃあ、そろそろ帰りますか?」
「ああ。そうしよう」
建物から出ると領地民は私達の格好に驚く。
初めてみる服装だが、何故かとても素敵で自分達も着たいと思った。
これもローズに言えば作ってもらえるのかと視線を向ける。
領地民からの視線を感じた私は'ふふん。、計画通りね。主人公二人が着れば間違いなく、みんな着たくなると思ったわ。さすがに、国中に繁栄させるのは難しいだろうが、領地民だけでも着たいと思ってもらえれば成功ね。どんどん売って金儲けしなくちゃ'と新たな事業を始め金儲けをすることにした。
幸せそうな男爵の後ろで笑っているローズを見た二人は'今度は何を考えているんだ?'と思ってしまう。
その日の銭湯は予想を遥かに上回る人が訪れ、長い列ができた。
それくらい大盛況だった。
一週間後。
「本当に行くんですか?」
アスターが聞いてくる。
「そうよ。三日前にそう言ったでしょう。お父様もお母様も仕事を任せられそうだし、今のうちに面倒なことは片付けておかないと後から大変なことになるしね。それにそう遠くない内に馬鹿どもが欲を出してここにくるし」
「……?」
アスターは私が何を言ってるのか全く理解できないのか首を傾げて何を言ってるんだという顔をする。
「そうですか。わかりました。くれぐれも無茶はしないでくださいね。アイリーンを連れて行かないのなら」
「わかってるって。頼りにしてるわ。(主人公ちゃん)」
特別大サービスでウィンクをする。
元の世界では私がウィンクすると男女構わず顔を赤らめた。
だから、喜ぶだろうと思ってやったのだが……
「……」
アスターは物凄い嫌そうな顔をする。
「……」
私はそんな顔を見て二度とコイツにだけはしないと固く誓った。
「……」
「行こうか」
「はい」
私達はついて行こうとするアイリーンを「私達がいない間、この領地を守ってほしい。頼れるのはアイリーンだけなの」と説得して置いていく。
三日前から駄々を捏ねていたが、私がそう言うと嬉しそうに「お任せください」と見送ってくれた。
馬を走らせること五時間。
ようやく報告にあった怪しい建物を見つけた。
'ん?これってゲームやアニメでよく見かけるダンジョンってのよね?それにしてもなんか禍々しいオーラ出てない?'
来た以上は入らないといけないが思った以上に不気味で、こんなことならアイリーンを連れてくれば良かったと後悔する。
「入りますか?」
馬から降りようとしない私にアスターが声をかける。
「……うん。そうだね」
私は腹を括り馬から降りダンジョンへと入る。
'ダンジョンって魔物や罠が仕掛けてあるのが普通でしょう。私まだ死にたくないのに……ていうか、小説にはこんなダンジョン出てこなかったじゃん!ふざけんな!せめて出てたら攻略法とかわかったのに……!'
私は顔も知らない作家に心の中で文句を言う。
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「ハーピーがいます」
「はーぴー?」
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アスターは頷く。
表情はいつもと同じだが、なぜかドヤ顔をしているように見えた。
『よし、行け!』
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絶対何か企んでいると。
万が一に備えてアイリーンに自分の性格がバレないよう置いてきたのだといま気づいた。
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'可愛くないやつね!言われなくてもそのつもりだし!'
私はアスターの言葉に返事せず睨みつける。
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