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国王
しおりを挟む一週間後
「それじゃあ、アスター。しっかりお父様とお母様を守るのよ。もし、彼らが馬鹿なことをしようとしたら死なない程度にやっちゃっていいから」
「畏まりました」
これから裏切り者達を王宮へと連れていく。
この領地から一番近いハワード伯爵のところにいき、事情を説明し魔法通信具で国王に報告すると直接きて説明するよう求められた。
本当なら私が行かないといけないのだが、そんな面倒くさいことはしたくないので風邪を引いたフリをして両親に押し付けた。
アスターは私が風邪を引いてないことに気づいていたが、あえて何も言わなかった。
その代わり、ものすごく冷めたい目を向けられた。
「あ、それとこれ。渡しとくわ。うまいことやってね。それで借金が返済できるか決まるんだから」
「それはどういう意味ですか?」
アスターは箱を受け取りながら尋ねる。
「そうね。あなたの手に我が家の命運がかかってるってことよ。頑張りなさい」
「……」
アスターはようやく気づいた。
面倒なことを押し付けるためにこの人は風邪をひいたフリをしたのだと。
この件を全て知っているのはローズを除いて自分だけ。
国王に自分の代わりに説明させるためだけに全ての情報を自分に共有した。
「そんな顔をしないでよ。それじゃあ私が虐めてるみたいじゃん」
'実際そうでしょう!'
声には出さなかったが心の中でそう叫ぶ。
「心配しないで。はい。これ」
「今度はなんですか?」
今度は手紙とホットケーキのレシピが書かれた紙を渡される。
「私の言葉を代弁するための紙ね。そこに言うこと書いてあるから、その通りに言えばいいわ。渡すタイミングも」
「……わかりました」
アスターはそう返事するも、それなら最初から自分で行けばいいのではと思った。
「あんた、今そんなの書く暇があるならいけばいいのにとか思ったでしょう」
「……」
図星で何も言えなくなる。
「馬鹿ね。私が王宮まで行ったら帰ってくるのに二ヶ月かかるわ。そうしたらその間、この領地の発展は止まるのよ。今のうちにやらないといけないことが沢山あるの。早くしないと手遅れになるの。あなたもわかってるでしょう。このままいけば、スカーレット家は終わる。そうすれば領地民達は生きていけなくなるわ。今の私は国王に割く時間は一秒もないの。だから、お願いね。私の代わりに頼むわね」
「……わかりました」
箱と手紙、レシピを持ち部屋から出る。
馬車に荷物を積み使用人達に見送られながら出発する。
だが少ししてあることに気づいた。
'もしかして、私はまんまとのせられたのか……?'
ローズの演技があまりにも上手で何の疑いも抱かなかったが、今になっていいように利用されたことに気づく。
「ふぅ。案外上手くのせれたわね。さてと、今日は風邪を引いたていだから一日中ベットの上で過ごそう。最近頑張ったしね。ご褒美!ご褒美!」
私は部屋の窓から馬車が出発するのを見送ってから、ベットの中に戻り二度寝をする。
一ヶ月後の王宮。
アスター達が王宮へと着くと、親衛隊が裏切り者達を連れていった。
残された三人は国王の補佐官のフリージア侯爵が出迎えた。
「急なお呼び出しに応じていただき感謝します。国王陛下がお待ちです。ご案内いたします」
誰にでも優しく礼儀正しいと有名なフリージアが案内してくれると知り男爵夫妻は安心する。
もし他の人だったらと想像するだけで胃が痛くなる。
自分達の使用人から裏切り者が出たのだから仕方ないことだが、信じていた者達に裏切られただけでも辛いのに、更に自分より階級の上の者達から蔑むような目を向けられるのは堪ったものではない。
そんなことを考えているとあっという間に応接間に着いた。
「陛下。スカーレット男爵夫妻と護衛騎士をお連れしました」
フリージアが声をかけると中から「入れ」と声が聞こえた。
フリージアは三人に入るよう促す。
男爵が一番最初に中へ入り、その後に夫人、
アスター、フリージアと順に続く。
「スカーレット男爵が国王陛下にご挨拶申し上げます」
男爵は頭を下げる。
夫人とアスターも後ろで同じように頭を下げる。
「おもてを上げろ。挨拶はこの程度で早速本題に入ろう。だが、その前になぜ令嬢がいないのか説明してくれ。報告によれば彼女が解決したとあったが?」
声や口調は優しいのに、さすが一国の主。
圧倒的なオーラがあると初めて会ったアスターはそう思ったが、なぜかローズの方が王に似合うなと思ってしまった。
アスター自身、なぜそんなことを思ったのか理解できず混乱する。
顔には一切出していないので他人から見ればきちんと話しを聞いているように見える。
「それが、出発の前日に体調を崩してしまい長旅に耐えられないと思い療養させました。代わりに娘と一緒に真相に辿り着き、裏切り者達を捕まえた彼を連れてきました」
男爵は震える声てなんとか説明する。
国王はそれを聞いてアスターに視線を移す。
「名はなんと申す」
「アスターと申します」
「では、アスター」
「はい。陛下」
「そなたは今回の件どれだけ把握しているのだ?」
「全て把握しております」
本当は全てではないがローズからそう言うよう指示を受けている。
それに国王に聞かれる内容は全て知っているので嘘はついているが問題はない……はずだ。
アスターは言ってすぐローズの指示に従ったことを少しだけ後悔した。
「そうか。ならよい」
本当はよくないが、体調を崩している者を無理矢理連れてこいというのは嘘だとわかっていても言うわけにはいかない。
男爵夫妻の態度を見るに二人は本当にローズが体調を崩していると思っている。
だが国王は一瞬、アスターの表情が変化したのを見逃さなかったため、すぐにローズが体調を崩したのは嘘だとわかった。
ローズとアスター、二人を罰するのは話しを聞いてからにしようと決め、どんな罰を与えるか頭の中で考え出す。
「では、まずはなぜ彼らがミレアン国とオレスティ国と繋がっているのに気づいたのか、そこから説明してくれ」
「はい。わかりました」
アスターは国王に言われた通り、そこから話し始めた。
ローズが考えた物語を。
「……つまり、たまたま其方が執事と敵国の人間の会話を聞き、たまたま令嬢が証拠の手紙を見つけ、たまたま騎士達が令嬢を侮辱し追い出したあと彼らが悪さをしていなか確認したら、たまたまそこに執事と騎士達が作戦を立てていて、たまたままた内容を聞いて自分達で解決したと」
「はい」
「……」
国王は頭が痛くなり額を抑える。
絶対嘘だとわかっているのに、先程部下から魔法使い達が裏切り者達に自白魔法をかけ聞いた内容と同じで何も言えない。
もちろん、彼らはアスターに話しを聞かれていたことは知らないので、その話しはなかったが。
だからといってこの話しをそのまま信じるのは馬鹿のすることだ。
だが、もっと大馬鹿なのは今ここで彼らに詰め寄り真実を話せと強要することだ。
国王はある意味感心した。いや、もっと正確に言えば脅威を感じた。
自分の行動を予測され、絶対にこれ以上追求されることはないとわかった上での完璧な作り話。
臣下達の手前、国王はこの件を男爵家の手柄として終わらせなければならなくなった。
いっぱい食わされたと腹は立ったが、不快には感じなかった。
寧ろこんな作り話を考えた人物に会って話しをしてみたいとすら思った。
そのためにも国の危機を救った男爵家に褒美を与えることにした。
「そうか……スカーレット男爵」
「はい」
男爵は緊張して声が震える。
「よくやった。国の危機を未然に防いだ褒美を授ける。後日、男爵家に届ける」
「あ、ありがとうございます。陛下」
男爵は目頭が熱くなり涙が流れそうになるのを必死に耐える。
後ろにいた夫人は耐えきれず涙を流し喜んだ。
アスターはこの結末に呆然と立ち尽くした。
信じられなかった。
ローズの予想した通りの結末になったから。
なら、この後のこともその通りになるのかと少しだけ期待してしまう。
「話は終わりだ。もう下がっていいぞ」
「はい……あの、陛下。別件で報告したいことがございます」
男爵が緊張した面持ちで言う。
「なんだ?」
まだ何かあるのかと思い顔が険しくなる。
これ以上何かしたのなら二国と戦争になるのも覚悟しなければと思い、男爵の言葉の続きを待つ。
「我が領地で取れた新たな甘味料を報告いたします」
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