天才詐欺師は異世界で無双する!

アリス

文字の大きさ
上 下
14 / 109

ホットケーキ

しおりを挟む
 南町奉行所には与力二五騎同心百二十人がいる。
 だがその内、常時探索を行っているのは、三回り方の同心十四人だけである。
 廻り方の御供中間を増員して、何とか五十人を確保している現状だ。
 目明しとか岡っ引きと呼ばれる、御用聞きも二百人規模で総動員している。
 昼夜風烈廻りの与力二騎同心四人に加え、普通は非常事件の事務を扱う非常取締掛の与力八騎同心十六人も、事務の合間に見回りをしている状態だ。

 だがそれでも、蛇の弥五郎一味の行方は杳として知れない。
 そこで御奉行の使った秘策とは、見習いとその家臣の活用だった。
 本採用前の見習い与力が八騎いる。
 同じく本採用前の同心が四十五人いる。
 彼らと彼らの家臣を、交代制で見回りに投入するのだ。

 例え蛇の弥五郎一味を逮捕できなくてもいい。
 盗みに入れないようにして、江戸から追い払えれば町人が安心して暮らせる。
 追い払えなくても、盗みを諦めさせる事ができれば、殺される人間がいなくなる。
 御奉行はそう考えて、全見習いの投入を決断したが、これにも少々問題があった。

 町奉行所の与力同心には、明らかな経済格差があった。
 毎年三千両もの収入がある与力を筆頭に、五百石六百石の収入のある与力なら、見習い中の息子にも十分な家臣をつける事ができる。
 だが付け届けのない閑職の与力には、息子にまで家臣を整える事は不可能だった。
 それは同心も同じだった。

 そんな事情をよく知る年番方与力と吟味方与力が御奉行に上申した。
 御奉行の当初構想からは随分縮小されたが、余力のある与力家同心家の見習いが、市中見廻りに投入されることになった。
 当然だが、その中に七右衛門が含まれていた。
 いや、家臣が全て剣客であったので、大いに期待されていた。

「養父上。
 申し訳ありませんが、本日より日中の出仕は控えさせていただきます」

「なんの。
 何を謝る必要があろうか。
 全ては御奉行の差配で行われた事。
 堂々と御役目に励むがいい」

 今日から七右衛門は、日暮れから夜明けまで江戸市中を見回ることになった。
 正式な巡回なので、継裃で騎乗して、兵役の家臣を供にして巡回だ。
 共侍の若党二人に、鉄芯入りの木刀を腰に差した中間が六人。
 中間は役割によって、馬の口取り二人、槍持ち一人、草履取り一人、鋏箱持ち一人、合羽篭持ち一人であった。

 風烈廻り昼夜廻りでの巡回なので、全員が十手を懐にしている。
 だがこれでは、当主平八郎が奉行所に向かう時の供がいない。
 そこで河内屋で修行中の元譜代中間が、平八郎の出仕に動員されることになった。
 そのような状況はどこの与力家同心家でも同様で、出仕の供は口入屋から臨時雇いして、風烈廻り昼夜廻りに譜代家臣を使っていた。
 経済的に厳しい家は、臨時御供中間を供にして巡回した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...