13 / 110
カエデの木
しおりを挟む甘味料を手に入れるには原料がどこにあるか探さないといけない。
領地内にあればいいがなかった場合、他の領地主からどうやって手に入れるかを考えないといけない。
まずは領地内に生えてある植物を知る必要があるが……
この広い領地を一個一個探し回るのは面倒くさい。
それは最終手段だ。
まずは話しを聞いてあるかどうかを確認する。
「二人共。この領地に生えてある木や草。知ってるだけ教えてくれる」
そう言って微笑んだが、二人は「うわっ!」と声には出さなかったが表情からドン引きしているのが伝わってくる。
'相変わらず失礼ね。せっかく微笑んだのに'
二人の表情にイラッとくるも、すぐに表情を元に戻す。
「えっと、木と草ですね。私が知る限り……」
オリバーは軽く咳払いしてから知っている植物の名を上げていく。
さすが皇宮で官僚にまでのしあがる男だと感心しながら耳を傾けるも、どれも求めているものではない。
やっぱりそんな簡単にはないか、そう思ったそのとき……
「……あっ、そうでした。この屋敷の裏側から少し離れた所にカエデの木が沢山生えていますね」
カエデ、その言葉を聞いて驚きのあまり持っていたカップを落としてしまう。
「お嬢様!大丈夫ですか!?」
オリバー慌てて駆け寄る。
アスターとアイリーンもコップの割れる音がして慌てる。
「……オリバー。今なんて言った?」
「……?大丈夫ですか、と」
私が何を聞きたいのかよく理解できず困惑する。
「その前!」
「えっと、たしかカエデの木がこの屋敷の裏側に生えて……」
オリバーは最後まで言うことができなかった。
ローズがいきなり抱きついてきたから。
慌てて引き剥がそうとするもローズの口から出た言葉に気を取られそれどころではなくなった。
「オリバー。あなた最高よ!ありがとう!これで借金もなくなるし、億万長者にも繋がるわ!今すぐカエデの木に行くわよ!」
私はオリバーを突き飛ばし出かける準備をする。
「大丈夫か?」
オリバーはアスターに憐れむような目を向けられるも、ローズの口から感謝の言葉を言われそれどころではなかった。
「ちょっと!何してるの!早く行くわよ!」
準備を終え案内してもらおうと思ったのに、倒れたヒロインを助けるヒーローみたいなことをしている二人に怒鳴る。
すぐそこに金のなる木があるのに、動こうとしない二人に私は理解できなかった。
「はい」
二人は私の声でようやく動き出し、カエデの木のところまで案内してくれる。
「きゃあああー!」
想像以上の多さに私は嬉しすぎて叫ぶ。
「最高!金のなる木がいっぱいあるぅー!よっしゃあーーっ!」
私がそう叫ぶとアイリーンも「よっしゃあーっ!」と叫ぶ。
そんな私達の姿に二人は本気で同情した。
'妖精なのに可哀想'
'妖精王なのに可哀想'
ペットは飼い主に似るとよく言われるが、アイリーンだけには似てほしくなかったと思う。
「さぁ、あなた達。準備をしない」
私がそう言うと三人はそれぞれ動き始める。
アイリーンは桶を浄化。
アスターはナイフで木に傷を作る。
オリバーは傷ができたところの下に桶を括り付ける。
この作業は三人に任し、私は周囲を捜索する。
何かないかと。
暫く探したが結局何も見つからなかった。
私が三人のところに戻ると丁度作業が終わったところだった。
「三人共、お疲れさま。じゃあ、帰ろっか」
私はそう言うと屋敷へと向かう。
アイリーンは私の後をすぐ追うが、二人はその場に立ち尽くす。
借金返済できると言っていたのに、やったのは木を斬りつけ桶を木に括り付けること。
これでどうやって金を稼ぐのか二人にはどれだけ考えても検討がつかなかった。
何か考えがあるのはわかるが、今回ばかりは無理だと二人は思った。
次の日。
「おー。大量。大量」
私は桶に入ったメープルウォーターを見て顔がニヤける。
もう私にはこれがお金にしか見えなかった。
「じゃあ、二人共桶を交換して」
「……はい」
今日も自分達かと言う顔をする二人に、さっさと働けと顔でそうだと言う。
二人がせっせと交換しているうちに昨日とは反対側の方を捜索するもやっぱり何も見つからない。
諦めて帰っていると、どこからか花びらが飛んできた。
よく見ると桜の花びらだった。
今は春だし咲いてもおかしくない。
桜か。
'昔はよく見ていたな。施設にも一本だけあったし。5月になると実ができて、鳥達とよく戦ってたな。意外と美味しいのよね。あのさくらんぼ…………さくらんぼーー!'
私はもしかしたらこの桜の木がさくらんぼの木ではないかと思い、飛んでくる花びらの方へと走る。
「お嬢様!?」
「ご主人様!?」
いきなり走り出した私に驚きアイリーンはすぐさま追いかける。
二人はメープルウォーターのせいでゆっくり追いかけるしかない。
さっき「一滴でも溢したらおやつ抜き」と言われたため。
「あった」
走ること20分。ようやく見つけた。
私は木に近づき咲いてる花を見る。
そして確信した。
この木は施設に生えていた木と同じだと。
「さくらんぼの木。みーつけた!」
実がなるのはまだ先だが、使い道は沢山ある。
新たな金のなる木が見つかり、私の気分は最高だった。
「ご主人様。この木がどうかしたのですか?」
嬉しそな私を見て、アイリーンはこの木が気になる。
「これはね……」
説明しようと口を開くがそのとき「お嬢様。勝手にいなくならないでください」と二人が到着した。
「一体どうしたんですか?」
オリバーが尋ねる。
二度説明するのは面倒だし丁度良かったと思い、話しの続きを言う。
「この木が何の木か知ってる?」
「桜ですよね」
私の問いにアスターが答える。
「うん。この木に実がなるのは知ってる?」
「はい。何度か見かけました。小さな赤い実がなってました」
オリバーが言うと後ろでアスターも頷く。
「それが食べられるってことは知ってる?」
「……いえ」
オリバーは本当に?と疑う。
アスターもそういう顔をする。
アイリーンだけは私の言葉を信じいつ食べられるのか聞いてくる。
「食べられるのはまだ先だど、果物が食べれるのは良いわね。ねぇ、この国の果物は何があるかわかる?」
オリバーは「それはお嬢様の方が詳しいはずでは?それともわざときいているのか?」と思いながら答える。
この質問のせいで私に対する疑いがますます強くなる。
「リンゴ、レモン、びわ、葡萄、メロン、梨、イチジク、桃ですね……お嬢様。なぜそんな怖い顔をしてるのですか?」
オリバーは言い終わり、私の顔を見るとまたかと思った。
「私が?気のせいよ。私はいま最高に気分がいいから」
そう。本当に気分が最高だった。
この世界で食べられている果物がたった8種類しかないとは。
元の世界では私が食べたことない果物も多くあるくらい種類が沢山あるのに。
今のうちに手に入れれば更に大金が入ってくる。
笑いが止まらないとはまさにこのことだ。
この世界は何もかもが金に変わる。
誰も知らないから、全てを手に入れられる。
'ああ。実に愉快。最高に素晴らしいわ'
私は無意識に大声で笑った。隣で一緒にアイリーンも笑った。
その光景を見て二人がドン引きしているのも知らずに、長時間笑い続けた。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで220万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる