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カエデの木
しおりを挟む甘味料を手に入れるには原料がどこにあるか探さないといけない。
領地内にあればいいがなかった場合、他の領地主からどうやって手に入れるかを考えないといけない。
まずは領地内に生えてある植物を知る必要があるが……
この広い領地を一個一個探し回るのは面倒くさい。
それは最終手段だ。
まずは話しを聞いてあるかどうかを確認する。
「二人共。この領地に生えてある木や草。知ってるだけ教えてくれる」
そう言って微笑んだが、二人は「うわっ!」と声には出さなかったが表情からドン引きしているのが伝わってくる。
'相変わらず失礼ね。せっかく微笑んだのに'
二人の表情にイラッとくるも、すぐに表情を元に戻す。
「えっと、木と草ですね。私が知る限り……」
オリバーは軽く咳払いしてから知っている植物の名を上げていく。
さすが皇宮で官僚にまでのしあがる男だと感心しながら耳を傾けるも、どれも求めているものではない。
やっぱりそんな簡単にはないか、そう思ったそのとき……
「……あっ、そうでした。この屋敷の裏側から少し離れた所にカエデの木が沢山生えていますね」
カエデ、その言葉を聞いて驚きのあまり持っていたカップを落としてしまう。
「お嬢様!大丈夫ですか!?」
オリバー慌てて駆け寄る。
アスターとアイリーンもコップの割れる音がして慌てる。
「……オリバー。今なんて言った?」
「……?大丈夫ですか、と」
私が何を聞きたいのかよく理解できず困惑する。
「その前!」
「えっと、たしかカエデの木がこの屋敷の裏側に生えて……」
オリバーは最後まで言うことができなかった。
ローズがいきなり抱きついてきたから。
慌てて引き剥がそうとするもローズの口から出た言葉に気を取られそれどころではなくなった。
「オリバー。あなた最高よ!ありがとう!これで借金もなくなるし、億万長者にも繋がるわ!今すぐカエデの木に行くわよ!」
私はオリバーを突き飛ばし出かける準備をする。
「大丈夫か?」
オリバーはアスターに憐れむような目を向けられるも、ローズの口から感謝の言葉を言われそれどころではなかった。
「ちょっと!何してるの!早く行くわよ!」
準備を終え案内してもらおうと思ったのに、倒れたヒロインを助けるヒーローみたいなことをしている二人に怒鳴る。
すぐそこに金のなる木があるのに、動こうとしない二人に私は理解できなかった。
「はい」
二人は私の声でようやく動き出し、カエデの木のところまで案内してくれる。
「きゃあああー!」
想像以上の多さに私は嬉しすぎて叫ぶ。
「最高!金のなる木がいっぱいあるぅー!よっしゃあーーっ!」
私がそう叫ぶとアイリーンも「よっしゃあーっ!」と叫ぶ。
そんな私達の姿に二人は本気で同情した。
'妖精なのに可哀想'
'妖精王なのに可哀想'
ペットは飼い主に似るとよく言われるが、アイリーンだけには似てほしくなかったと思う。
「さぁ、あなた達。準備をしない」
私がそう言うと三人はそれぞれ動き始める。
アイリーンは桶を浄化。
アスターはナイフで木に傷を作る。
オリバーは傷ができたところの下に桶を括り付ける。
この作業は三人に任し、私は周囲を捜索する。
何かないかと。
暫く探したが結局何も見つからなかった。
私が三人のところに戻ると丁度作業が終わったところだった。
「三人共、お疲れさま。じゃあ、帰ろっか」
私はそう言うと屋敷へと向かう。
アイリーンは私の後をすぐ追うが、二人はその場に立ち尽くす。
借金返済できると言っていたのに、やったのは木を斬りつけ桶を木に括り付けること。
これでどうやって金を稼ぐのか二人にはどれだけ考えても検討がつかなかった。
何か考えがあるのはわかるが、今回ばかりは無理だと二人は思った。
次の日。
「おー。大量。大量」
私は桶に入ったメープルウォーターを見て顔がニヤける。
もう私にはこれがお金にしか見えなかった。
「じゃあ、二人共桶を交換して」
「……はい」
今日も自分達かと言う顔をする二人に、さっさと働けと顔でそうだと言う。
二人がせっせと交換しているうちに昨日とは反対側の方を捜索するもやっぱり何も見つからない。
諦めて帰っていると、どこからか花びらが飛んできた。
よく見ると桜の花びらだった。
今は春だし咲いてもおかしくない。
桜か。
'昔はよく見ていたな。施設にも一本だけあったし。5月になると実ができて、鳥達とよく戦ってたな。意外と美味しいのよね。あのさくらんぼ…………さくらんぼーー!'
私はもしかしたらこの桜の木がさくらんぼの木ではないかと思い、飛んでくる花びらの方へと走る。
「お嬢様!?」
「ご主人様!?」
いきなり走り出した私に驚きアイリーンはすぐさま追いかける。
二人はメープルウォーターのせいでゆっくり追いかけるしかない。
さっき「一滴でも溢したらおやつ抜き」と言われたため。
「あった」
走ること20分。ようやく見つけた。
私は木に近づき咲いてる花を見る。
そして確信した。
この木は施設に生えていた木と同じだと。
「さくらんぼの木。みーつけた!」
実がなるのはまだ先だが、使い道は沢山ある。
新たな金のなる木が見つかり、私の気分は最高だった。
「ご主人様。この木がどうかしたのですか?」
嬉しそな私を見て、アイリーンはこの木が気になる。
「これはね……」
説明しようと口を開くがそのとき「お嬢様。勝手にいなくならないでください」と二人が到着した。
「一体どうしたんですか?」
オリバーが尋ねる。
二度説明するのは面倒だし丁度良かったと思い、話しの続きを言う。
「この木が何の木か知ってる?」
「桜ですよね」
私の問いにアスターが答える。
「うん。この木に実がなるのは知ってる?」
「はい。何度か見かけました。小さな赤い実がなってました」
オリバーが言うと後ろでアスターも頷く。
「それが食べられるってことは知ってる?」
「……いえ」
オリバーは本当に?と疑う。
アスターもそういう顔をする。
アイリーンだけは私の言葉を信じいつ食べられるのか聞いてくる。
「食べられるのはまだ先だど、果物が食べれるのは良いわね。ねぇ、この国の果物は何があるかわかる?」
オリバーは「それはお嬢様の方が詳しいはずでは?それともわざときいているのか?」と思いながら答える。
この質問のせいで私に対する疑いがますます強くなる。
「リンゴ、レモン、びわ、葡萄、メロン、梨、イチジク、桃ですね……お嬢様。なぜそんな怖い顔をしてるのですか?」
オリバーは言い終わり、私の顔を見るとまたかと思った。
「私が?気のせいよ。私はいま最高に気分がいいから」
そう。本当に気分が最高だった。
この世界で食べられている果物がたった8種類しかないとは。
元の世界では私が食べたことない果物も多くあるくらい種類が沢山あるのに。
今のうちに手に入れれば更に大金が入ってくる。
笑いが止まらないとはまさにこのことだ。
この世界は何もかもが金に変わる。
誰も知らないから、全てを手に入れられる。
'ああ。実に愉快。最高に素晴らしいわ'
私は無意識に大声で笑った。隣で一緒にアイリーンも笑った。
その光景を見て二人がドン引きしているのも知らずに、長時間笑い続けた。
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