上 下
44 / 47

報告 2

しおりを挟む

「団長、準備できたぞ」

リヒトが通信石の準備が終わり、いつでも起動できると知らせにくる。

「ああ、ありがとう。今行く」

リヒトに呼ばれレオンとアスターは通信石がある部屋に向かう。

団長達全員に一斉に通信するのでそれ相応の大きさが使われるので部屋で大切に保管されていたものを使う。

この報告はある意味第五騎士団に喧嘩を売る行為になる。

それでも誰かが知らせないとこのままでは町の人達が危険な目に遭う。

下手したら国全体が危険な目に遭うかもしれない。

レオンは覚悟を決め通信石がはめ込まれた機械を起動させる。

全団に繋がるまでは少し時間がかかる。

繋がるまで三十秒程かかったが一秒が物凄く長く感じ息が詰まるかと思った。

通信に出てくれたのは第四、六、七、九、十三、そして五騎士団だけだった。

残りはきっと気づいていたが敢えて無視しているのだとわかっていたので、出ないなら出ないで仕方ないと諦め無視をする。

第十三騎士団だけは団長のジャンが出ている。

第七騎士団はユエルが今いないということはアスターからの話で知っていたのででないとわかっていたが、代わりに出たのが副団長のリーアで驚いた。

残りは多分団員達だ。

出てもらえるとは思っていなかったので団員が出てくれただけでもありがたかった。

「レオン団長、全団に通信をしているみたいですが一体何があったのですか?何団かは出ていませんが、出る気配がないので教えてください」

最初口を開いたのはリーアだった。

レオンの顔がずっと強張っているのに気づいていて何か最悪なことが起きているような胸騒ぎがして尋ねた。

「わかりました。時間がないので結論から言います。私の部下が先程第五騎士団管轄の森でワームを見たと報告がありました」

四と六と九の団員はたかがワームくらいで通信してくるなよという顔をするが、ジャンとリーアは東南に現れた全長百五十七メートルのワームのことを思い出す。

まさか、それほどのワームが現れたのかと二人は冷や汗が流れた。

「部下は遠目から見たので断言はできませんが百メートル近くあったと言っています」

「ひゃ、百メートル」

第六騎士団の団員が素っ頓狂な声を出す。

「それは確かなのか」

リーアはレオンの後ろにいるアスターがワームを見た者だと気づきそう問いかける。

「はい。この目で見ました。間違いありません」

きっぱりと断言する。

「なぁ、さっきら黙っているが本来ならこれは第五騎士団のお前達が報告しないといけないことなんじゃないのか」

ジャンが何も言わないレミリアにドスの効いた声で話しかける。

レミリアはジャンの言葉を無視し「貴様のようなクズが高貴な存在の俺に話しかけるな」と心の中で悪態をつく。

「黙っていられるのは困ります。何も話す気がないのなら貴方達の団長に話を聞く必要がありますので呼んできてください」

リーアはレミリアの態度に苛立ちさっきよりも強めの口調で命令する。

「待ってください!それは困ります」

団長に話を聞くと言われ慌ててやめてくれと言う。

団長にこの件を知られたらクビどころでは済まない。

「何が困るのですか?」

レミリアの態度から第五騎士団の団長はワームの存在を知らないのだとわかる。

部下であるレミリアが団長に報告せずにいるのは普通だったらあり得ない。

それをしているとなるとよっぽど何かやましいことをしてしまったのか、それとも自分達の管轄すら守れないのかと馬鹿にされるのが嫌で隠していたのかもどちらかだ。

思いつく理由がどれも幼稚なもので自分達の団ではあり得ないとリーアは思うも、こいつらならあり得そうだと思ってしまう。

「それは……」

「もういいです。そこの者達早く呼んできてください」

リーアはレミリアの傍で待機している者達に声をかける。

団員達は顔を見合わせどうするか迷っていると一人の者が「団長は今ここにはいません。貴族達との会議で出かけています」と言う。

まさかの最悪のタイミングで貴族会議が開かれていることにレオン達は頭を抱える。

団長である以上、自分の管轄で暮らしている貴族達に現在の状況を報告する義務があるのは全員知っているので仕事で出掛けている者を責めることはできない。

「そうですか。わかりました。では、戻り次第直ぐに連絡するよう伝えてください。レオン団長。今回の件の報告ありがとうございます。後は我々で何とかしますのでお任せください」

ユエルからレオンが王命を下さられたと知っているので今回の討伐に参加できないのはわかっている。

もしできるのなら、団長全員に報告などせず自分で解決しようとしたはずだと、

「ありがとうございます。では、後はよろしくお願いします」

レオンはリーアに頭を下げ後はアスターに任せる。

詳細なことはレオンではなく実際に見たアスターが報告すべきなので頑張れよ、という意味を込めて肩をポンポンと叩く。

後はリーアに任せていたら全て上手くいくだろうと思いレオンは部屋から出る。

レオンが部屋から出て行くとほぼジャンとリーアとアスターの三人での会話になった。

レミリアはこれからの自分の未来を想像して魂が抜けたように立ち尽くし、残りの三団は自分達の手には負えないと急いで団長に知らせにいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

処理中です...