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シチュー

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「少し待っててくれ。今からご飯を作るから」

家に帰る前、町により肉や野菜を買った。

家にある食材を確認してシチューをメインとして後二、三品作ることにした。

「私も手伝う」

料理など一度もしたことがないが、それくらいできるだろうと謎の自信から手伝うと。

いつも、料理は使用人や妖精達が作った出来立てのものを食べている。

どうやって作るのか知識はあるが見たことはない。

まあ、大丈夫だろうと料理に初挑戦する。

「ありがとう。じゃあ、この野菜達を切っていってくれ。こんな風に……、任せてもいいか?」

切る野菜達一つ一つ形が違うので見本として少しだけ切る。

「ああ、任せてくれ」

これなら簡単だと、包丁を持ち野菜を切る。

ドン。

大きな音がする。

「どうした!?」

肉を炒めようとゼインから目を離した一瞬で大きな音がして驚いて後ろを振り向く。

「大丈夫……か」

野菜とその下のまな板が真っ二つになっている。

目をパチパチさせまな板とゼインを交互に見る。

「すまん」

シュン、と効果音がつきそうなくらい申し訳なさそうに謝る。

力加減を間違えた。

結構力を抜いたつもりだったが、それでも強かったみたいだ。

「ゼン。怪我はないか」

包丁をゼインから受け取り机の上に置く。

手に怪我がないか確認する。

「ああ、私は大丈夫だが……」

まな板を見る。

「ああ、気にしなくていい。大丈夫だ。野菜は俺が切ろう。ゼンは肉を炒めてくれるか」

怒った顔や嫌な顔をせず、鍋に肉を入れ炒めるよう頼む。

今日はもう夜も遅いしまな板も後一枚しかないのでレオンが切ることにした。

また時間があるときにでも教えよう、と。

「わかった」

次こそは、とさっきのような失敗を繰り返さないよう力加減を慎重に調整する。

ゼインが肉を炒めている間に、まな板を捨て予備のまな板を出し野菜を切っていく。

「レオン。焼けたぞ。次はどうすれば?」

「これも一緒に炒めてくれ」

切った野菜を鍋の中に入れていく。

「わかった」

炒めるのはゼインに任せ、他の料理を作っていく。



「ゼン、一旦火を止めてくれ」

残りの料理を作り終え、ゼインの元にいき鍋の中をみて火が通っているの確認すると火を止めるよう言う。

火を止めると小麦粉をいれ馴染むまで混ぜた後、牛乳と水をいれ混ぜる。

調味料を入れ味を整えると沸騰するまで煮込む。

隠し味に白ワインも加える。

「よし、後は煮込むのを待つだけだな。少し休憩にしよう」

魔法石でキンキンに冷えているレモネードをコップに注ぎソファに座る。

ゼインも隣に座るよう促す。

はい、と隣に座ったゼインにコップを手渡す。

「ありがとう」

ゼインが受け取ると笑いかけ、ゴクゴクとレモネードを飲み干していく。

「はぁー、生き返る」

ゼインもレオンみたいにゴクゴクとレモネードを飲み干していく。

「美味しい」

「そうか。なら、よかった」

まだ飲みか、と聞くと「うん」と頷きコップを差し出す。

ゼインのコップに注ぎ自分のにも注ぐ。

シチューが沸騰し味が染み込むまでの間たわいもない話をしたりカードゲームをしたりした。



「うん、うまい」

スプーンで味見をする。

「ゼンもするか」

「する」

「はい」

そう言ってスプーンをゼインの口まで運ぶ。

「美味しい」

「だろ」

得意げな顔をする。

「ゼン、シチューを混ぜてくれ。その間に他の料理を準備する」

「わかった」

レオンは皿にさっき作った料理をのせていく。

「ゼン。パンは二枚でいいか?」

シチューにはパンだろ、と切りながら尋ねる。

「ああ、大丈夫だ」

何のことかわからないがレオンに任せていれば大丈夫だろうとそう言う。

「わかった」

自分の分とゼインの分、四枚分切り皿にのせる。

残りは魔法石で腐らないよう保温する。

料理を机に置き、シチューを入れる皿を持ってゼインに装ってくれと頼む。

「これくらいでいいか?」

「ああ」

シチューをレオンが白ワインをゼインが持って席につく。

「食べよう」

シチューを一口を食べる。

「うん、美味いな」

今回も上手に出来たと。

「うん、美味しい」

優しい、こころが温かくなる味。

自分も少し作ったからか余計に美味しく感じる。

他の料理も食べていき、食べるたび「美味しい」と感想を伝える。

ゼインがどんどん食べてくれるから嬉しくて頬が自然と緩んでいく。

ふと、ゼインの口元に目がいきシチューが付いているのが見え、つい笑ってしまう。

何故レオンが笑っているのかわからずきょとんとした顔をして首を傾げる。

「ついているよ」

トントンと付いている場所を教えるが、よくわかっておらず首を傾げたまま動かなくなる。

レオンは仕方ないな、とハンカチを取り出して口元を拭く。

ゼインは一瞬、レオンが何をしたのかわからなかったが理解した瞬間、自分の顔に熱が集まっていくのを感じる。

「あ、ありがとう」

俯きながら恥ずかしそうに礼を言う。

ゼインは顔を上げられず、下を向いたままシチューをどんどん頬張っていく。

その姿が子供達と重なって笑ってしまう。

結構な量のシチューを作ったが大食いの男と無限に食べられる神がいればあっという間に全て平らげてしまう。
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