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約束

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「あ、思い出した」

急に黙り込んで何かを考えていたレオンはバッと顔を上げるとそう呟く。

「そうか、それで誰が作ったんだ」

レオンが思い出すまで待っていた。

「これは、あくまで噂話の一つだから本当かどうかわからないけどそれでもいいか?」

困ったように笑いながら言う。

本当か嘘かもわからない話をゼインに教えるのを躊躇う。

ゼインは「それでも構わないから教えて欲しい」と頼む。

わかった、と頷き昔ヴァイオレットに教えてもらった噂の一つを話す。

「昔、ある男女の貴族達が両親に隠れてここで会っていたらしい。二人は恋人同士だったが、家同士は昔から仲が悪く結婚したくても言えない環境だった。ひまわり畑は二人の家のちょうど真ん中にあった。周りはひまわりしかない。ひまわりは人より高いし、隠れて会うにはうってつけの場所だと頻繁にここで会うようになった」

今の俺達みたいだな、とニッと少年のような笑みを向ける。

「男は上着を女の為に地面にひいて座らすほど紳士的な人だった。女はそんな優しい男がたまらなく好きだった。だか、女は父親のせいで隣国の王子と結婚する羽目になったんだ。愛する女性を失った男は悲しみのあまりずっとここで女が帰ってくるのを待ち続けた。その姿を見るに耐えられなかった男の姉がせめて地面でなく椅子に座れと言って作らせたのがこれだ」

これ、でブランコを叩く。

「そうやってできたのがこれだ」

顔から感情がなくなり無になるが一瞬で元に戻る。

ゼインはそのとき考え事をしていたので見逃していた。

「(ん?あれ?この話どっかで聞いたことがあるような、ないような。気のせいか?)」

長い年月を生きていれば似たような話を聞いたことは沢山ある。

きっと、気のせいだと頭を横に振って無理矢理納得する。

「そうなのか。二人は幸せだったかな。男は一人でも幸せになれたかな」

ゼインにとって愛というものにいい思い出はない。

「さあ、どうだろう。そうだったときもあったかもしれないけど、女は王子と結婚する為に男を捨てた。例えどんな事情があろうとそこだけは変わらない。男がどんな想いで女の帰りを待っていたのかだって本当のところ誰にもわからない。死ぬ間際は愛していなかったかもしれない。他人の心なんて誰にもわからない。幸せだったかなんて俺にはわからない。でも、そうだったらいいと思うよ」

レオンは空を見上げながら言う。

レオンは悲しみ、寂しさ、怒り、哀れみなどの感情がごちゃ混ぜになった瞳をしていた。

ゼインはレオンと反対の方を向いて「(やっぱり、この話聞いたことがあるような……)」と考え混んでいたので、どんな表情をしていたか見ていなかった。

昔の記憶を思い出そうとして神力を使おうとしたがやめた。

嫌な記憶まで思い出してしまいそうだったから。

「これが本当にあった事で事実だったら悲しいな」

「そうだな。だから、本当じゃなかったらいいよな。ただの噂だったら」

どこか遠くを見るレオンの瞳はとても悲しみに溢れていた。

「愛した人に裏切られ、帰ってくるはずもない者をずっと待ち続けるなんて……。本人がどう思っているかはわかららいが、辛くないわけない。俺は話を聞いただけで胸が痛い。だから、本当じゃなかったらいいな」

独り言のようにそう言うレオンの顔は笑うに笑えず、泣くに泣けないなんとも言えない顔をしていた。

ゼインはなんて声をかけたらいいかわからずただ隣にいることしかできなかった。

「君は優しすぎる」

その言葉はレオンの耳に届く事なく強風と共に飛んでいった。




「そろそろ帰ろうか」

空の色がオレンジ色に変わり始めレオンはブランコから降りる。

「そうだな」

ゼインも降り、馬の所に向かう。

「なぁ、ゼン」

「どうした?」

「また、ここに来よう」

振り返りニッと笑う。

ひまわりが背景になっていて美しいなと目を奪われる。

「ああ、そうだな。また、来よう」

人間とは二度約束しないと誓ったのに、今度は無意識ではなく自分の意志で約束する。

ーー凝りないな。私も。

また、同じ目に合うかもしれないのに。

それでもいいと思ってしまった。

レオンになら、と。

「今度は弁当を持ってくるのもいいな。朝から来て一日中過ごすのも楽しいし。あっ、夜に来るのもいいな。ゼンはどっちがいい?」

ひまわりに中で一日中何もせず過ごすのもいいし、月の光で朝とは違う美しいひまわりを見るのもいい。

ゼンと一緒ならどっちでもいいし、どっちも一緒に見たいと思った。

「両方」

ボソっと小さな声で言う。

「ん?」

レオンの耳には聞こえず聞き返す。

「両方したい」

ゼインがそう答えるとパァと目を輝かせて「ああ、そうだな。両方しよう」と幸せそうに笑う。

「今から楽しみだな。今度はいつ来ようか。弁当の中身は何がいいかな。レオンは何の食べ物が好きなんだ」

家に帰るまでレオンはゼインにいろんな質問をした。

ゼインは嫌がる素振りなど一切せず、どの質問にもきちんと答えた。

今まで自分に質問する者など滅多にいなかった。

いても事務的な事などだった。

質問されるのはあまり好きでないと思っていたがそんなことはなかった。

いや、レオンだからいいのかもしれない。

ゼインは自然と自分の頬が緩んでいくのがわかった。
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