上 下
23 / 47

ひまわり畑 3

しおりを挟む
「えっ、嘘だろ」

そう呟くと全力疾走で逃げる。

まさか、見つかるとは思わず変な声が出てしまう。

何故ここに?

どうやってここにいるとわかった?

というかよくこんな広い範囲内で自分を見つけられたなと感心してしまう。

ひまわりの中を軽々と走り続けたが、暫くして冷静さを取り戻したレオンは少し大人げなかったかと反省し走るスピードを落とし後ろを振り向こうとした瞬間パシッと腕を掴まれる。

「レオン」

ただ一言ゼインはレオンの目を見て名を呼ぶ。

レオンが急に走り出したので、何か自分はしてしまったのかと焦り急いで後を追う。

神力はつかわなくとも神であるので足は早いが、レオンも相当早い。

それにひまわりの花を颯爽と走るので追いつくのに少し時間がかかってしまった。

「ゼ……ン」

俺の負けだ、と言おうとしたがゼインの目が酷く悲しげで何も言えなくなる。

何か言わなければと思うも、急に手を掴まれ体のバランスを崩したレオンはそのまま地面にぶつかりそうになる。

「危ない」

ゼインのその声でレオンはハッとするも、気付くのが遅すぎ、衝撃に備える。

ドンッ。

地面にぶつかる音がする。

「……痛くない」

何が起きたのか把握しようとゆっくりと目を開けると何故かゼインが下にいた。

すぐにゼインが自分を助けてくれたのだと気づいた。

「すまない、ゼン。大丈夫か?」

そう言って顔を上に上げるとすぐ近くにゼインの顔があって固まってしまう。

たった数秒だが、お互い金縛りにあったみたいに二人共動けなかった。

我に返ったレオンが「すまない」ともう一度言ってパッと離れる。

「私は大丈夫だ。レオンの方こそ大丈夫か?」

ゼインも体を起こす。

「ああ、お陰でどこも怪我していない。ありがとう」

さっきはあまりの近さに驚いて失礼な態度をとってしまうが、すぐにいつも通りに戻る。

「なら良かった」

花が咲くような時の愛らしい笑みを浮かべる。

レオンに怪我がなく安心する。

自分は神だからこれくらいのことでは怪我をしないが、人間はちょっとした怪我で死んだりするかもしれない。

レオンが倒れるとわかった瞬間体が勝手に動いてレオンを抱きしめ守るように倒れた。

自分の行動に驚き戸惑っていた。

「立てるか?」

ずっと座って動かないゼインを心配して手を伸ばす。

「ああ」

レオンの手を掴み立ち上がる。

妙な空気が二人の間に流れる。

どちらともなく歩き出すが会話はない。

レオンは何か言おうとして口を開いたり閉じたりを繰り返している。

別にさっきのはちょっと事故みたいなものだし、男同士だし、大したことじゃない。

そう思うも妙にそわそわして落ち着かなかった。

「ん?あれは何だ?」

ゼインのその一言で漸く長い沈黙が終わりをむかえる。

レオンはゼインの少し後ろを歩いていたので急に立ち止まったゼインを不思議に思いながら「どうした?」と声をかける。

「あれは?」

ゼインの指差す方をに目を向けると白い物体があった。

「ああ、あれはブランコだよ」

「ブランコ?」

ゼインの知るブランコとはあまりにも違うので首を傾げてレオンを見る。

天界にあるブランコは椅子が木ではなく雲でできている。

それに乗ったことはないが、子供の神達が遊んでいるのを見たことがある。

ブランコとは雲の上に神を乗せるとクルクル回って飛んだり、星を周りに降らせたりして遊ぶものだと思っていた。

人間界にもブランコという乗り物があることにも驚いたが、これでどうやって遊ぶのか謎だった。

「気になるなら乗ってみるか?」

「ああ」

二人はブランコのところまでさっきより少し早足で近づいた。

「二人で乗るのか?」

ブランコにしては二人の背よりも小さい。

座るところは大人二人が余裕で座れるくらいある。

「まあ乗れるけど、とりあえず座ってくれ」

レオンはブランコの後ろにいき、ゼインに座るよう促す。

「これでいいのか?」

「ああ。とりあえず、足を地面から離してくれ」

「わかった?」

レオンに言われた通り足を地面から離す。

これに何の意味があるのか、と尋ねようと口を開く前にレオンが背もたれのところを持ち後ろに引っ張る。

「では、いくぞ」

「ああ?」

何が始まるのか全くわからないがとりあえず返事をする。

ゼインが返事すると、思いっきり背もたれを押しブランコを動かす。

それを何度か繰り返す。

「気持ちいいか」

太陽のような眩しい笑顔ですそう尋ねる。

「ああ」

ブランコが揺れるたび気持ちいい風が頬をかすめる。

暫くするとレオンはブランコを押すのをやめて隣に座る。

「楽しかったか?」

「ああ。初めてやったがブランコとはいいものだな」

こんなに楽しいものならもっと早くやればよかった。

「そうか」

嬉しそうにするゼインを見て今度は座ったままブランコを漕ぐ。

ゼインもレオンみたいに地面を蹴ってブランコを漕ぐ。

ゼインが満足するまで結構な時間ブランコを漕ぎながらたわいもない話しをした。

自分の立場を忘れ、ただ幸せに笑い合った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

処理中です...